第40話 それどころではない
匡さんが仕事に出ない理由も、僕に護身術を教えた理由も全て話してもらった。知らないとはいえ先程の僕の行動は大変二人を驚かせてしまったと思い、深く頭を下げて謝った。
「何も知らなかったので仕方がないですよ。さすがに匡と一緒にいるとわかった時は焦りましたが……何も無くて良かったです」
ずっと匡さんに背中を見せずにいたのは、万が一のことを考えていたのだろう。匡さんも導さんがいたらドアを開けると言ったのは、もしあの時に正気を失ったら、と考えていたのだろうか。
改めて軽率な事をした。現世では他人にここまでしたことはないのに、なぜだろう。不思議と此処のみなさんのことは気になるし、何かしなければと思うのだ。
だけどそれが空回って心配や迷惑をかけては申し訳ない。今一度謝ろうとした時、けたたましいナビの警告音が鳴り響いた。
「紅緋が現れた時に鳴るようにセットした警告音です」
すぐにナビを起動し、モニターで場所を特定して間違いなく紅緋と確認を再度行った。念のための確認だったが間違いなかった。
あの映像の時より少し成長した、山吹色に桜の柄が入った着物に、黒い袴を着た紅緋が薙刀を片手に現世にいる。
「匡を向かわせるので、守君は紅緋を逃がさないようにしてください」
「はい!」
紅緋の周囲に死神も悪魔もいないので、時間稼ぎに煙幕を出現させてから動こうとする紅緋の行く手に雷を落とした。
「薙刀に落とせたらいいんだろうけど難しいな。それに匡さんより素早い」
遠隔攻撃と言っても雷を落とすくらいしかでいないので、匡さん並の反射神経を持っていれば簡単に回避されてしまう。それでも攻撃は当てられなくても足止めはできた。
匡さんのナイフが紅緋の首を掠めたのをモニター越しに確認し、僕は遠隔攻撃を止めた。
『久しぶり、と言った方がいいか』
明るい場所で見る匡さんはやはり以前よりやつれていた。まともに戦えるのか不安だが、僕はここでサポートすることしかできない。
それでも、いつでも動けるように両手はナビから離さない。僕にできることをするしかないのだから。
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