第37話 残業
死神が魂を回収する際、中級悪魔が襲撃してくる可能性は常にある。襲撃の危険を少なくするために、狩崎氏が複数の回収場所の中間地点で悪魔を引き付ける役割をしている。
だがそれは狩崎氏がいることで成り立つことだ。
「狩崎氏をしばらく此処から出さないとは、どういうことだ」
紅緋とやらの行方を紀川氏に調べてもらっている間、私は野登と今後について話していた。だが狩崎氏を仕事に出さないと言われては黙っていられない。
「上級悪魔が例外なく正気を失うとは断言できません。ですがもし匡が死神の目の前で狂って、死神を傷つけたとしたら」
そんなことをしたら間違いなく狩崎氏は上の死神に始末されるだろう。狩崎氏をそんなことで失いたくない気持ちはわかるが、仕事を断る他の理由を考えなければ上は納得しないだろう。
私は腕を組みながら野登にわかりきったことを確認する。これも仕事だ。
「上に報告する内容はどうする気だ」
「匡を出さずとも、守君に遠隔攻撃で死神に近づく悪魔を始末すれば問題ないでしょう。あの機械は複数の画面で処理が可能ですからね」
ナビの機械に座り、必死に調べている紀川氏にうっすらと隈があるのを見逃すほど馬鹿ではない。
無理をさせていることはこいつも私も気づいている。
「紀川氏は了承済みか? 狩崎氏のナビとは大きく違う仕事だろう。それに先程の護身術の練習は前線に出す為ではないのだな?」
「匡の代わりに仕事をすることについては、これから話します。護身術は万が一、此処で正気を失った匡に襲われた時のためにです」
いつもなら野登は笑いながら言うのだが、珍しく笑っていない。本当のことを話しているのだろう。まっすぐ目を見ている。
「信じてくれますか」
「……ああ。上には上手く私から話しておく」
「口の堅い貴女が三獣隊の連絡係でよかったです」
いつもよりやわらかい笑顔で言われて、今は本心で笑っているのかと思えた。
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