第36話 新しい手がかり

 野登がどこまで考えているかはわからないが、私は狩崎氏ともう一体の悪魔が潰し合ったとして、疑問が多々ある。

 まず上級悪魔である狩崎氏が、傷を負ってもすぐに治せる点だ。上級悪魔だからかはわからないが、死神よりも頑丈であることはわかる。仮に互角の力を持っていたとして、決着はつくのだろうか。

 次に上級悪魔の記録。ありとあらゆる記録が残る死神本部でも、上級悪魔についての記録は数少ない。野登から報告を受けてから勉強しようとしたが、どれも不審な点が多々ある。

 上級悪魔に対峙した死神は生きて戻ってきたことはない。だが記録は実際に上級悪魔を使って実験した結果が残っている。嘘が記されているとは思わないが、どうしても確証がないため疑ってしまう。

「そんな疑問に全て答える時間が無いので、後でコレを見てください」

 まだまだ疑問はあるのだが、それを全て聞く前に一枚のディスクを押し付けられた。

 確かに時間がないことはわかるが、あまりにも投げやりではないだろうか。

「まさか私に先程の疑問程度を聞くためだけに守君の護身術の練習を邪魔しに来た、なんてことはありませんよね」

 もちろんそれだけではないが、紀川氏が護身術を習っていることも聞きたいところだ。だがこれ以上何か聞いたら追い出されそうなので止めておこう。

「魂の回収を行っていた死神から報告があった。狩崎氏ではない者が中級悪魔を狩って助けてくれた、と。すぐにどこかに消えてしまったそうだが……」

 死神の弱さを知っている二人なら、これが何を意味しているのかわかるのだろう。目の色を変えた二人はすぐに動いた。

 野登が指を鳴らすと部屋の隅に寄せられていたソファーやテーブルが勝手に定位置に移動した。見慣れた部屋になったと思ったのも一瞬で、家具に目をやっている間に紀川氏はいつものナビの位置にいた。

 回収時の映像記録を見ているのだろうか、野登もその後ろで真剣に画面を見ているようだ。

「いました、導さん。紅緋ですよ、間違いなく」

「上級悪魔の巣窟を探す必要がなくなりましたね。映像からわかるデータを全部解析してください。匡を向かわせます」

「すぐにやります。これだけ姿がハッキリしているんで、居場所もすぐ見つかると思います」

「わかったらすぐに匡に報告してください」

 何やら慌ただしく話しているが、説明くらいしてほしいところだ。黙って野登の背後に立つと、私に聞こえる程の大きいため息をつかれた。

「わかっています。説明をするので座って下さい」

「私に理解できる速度で頼みたい」

 これだけ野登がすぐに動くのだから、上級悪魔が絡んでいるのだろう。手短に説明されたが、予想は合っていたようだ。

「まあまあ理解したが、その紅緋とやらが死神を助けた理由は何だ?」

「わからないから調べるのですよ、馬鹿ですか?」

 些細な疑問を言っただけだが、鼻で笑ったぞコイツ。やはり気に食わないやつだ。

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