第35話 進退両難の手前

 別に疑っているわけではない。けれど、もし匡が此処で正気を失った時、守君は自分を守る術を持っていない。

 だから念のために護身術を覚えさせることにした。上級悪魔の巣窟の捜索は死神と連携して行う事になるだろうから、匡の代わりに前線に出すなど絶対にない。でもまあ覚えていて損はないはず。

 今後の三獣隊の動きを指示するために匡の部屋に入ると、今まで支給した武器を全てテーブルに並べて複雑な顔をした匡に睨まれてしまいました。ノックをし忘れましたね。

「すみません。座って話してもらえますか」

「かまいませんよ」

 表情が変わらないところを見ると、先ほどわたした本をきちんと読んだようですね。全ての武器を預かってほしいと真剣に言われてしまいました。

「必要なら手錠もつけてください。任務以外は部屋の鍵を外からつけるとか、何でもいいです」

 今の匡は、守君を切り離す前のように怖がっていますね。前のように簡単に解決しなさそうですが。

「仕事はできそうですか?」

「此処を出たら問題はないと思います。仕事中になったら、守に雷でも何でもやらせてください。通常通りで止まるかわからないですけど、暴走するくらいなら消えたいんで消してください」

「私が匡を消すような指示を出すと思っているのですか?それは悲しいですね」

あまり感情が入らなかったからでしょうか、苦笑いされてしまいました。本心なのですがね。とりあえず本人が気にしているようなので武器を大型のケースに入れてテーブルから降ろすことにしましょう。

「……もうすぐだと思うんです」

 俯いたまま小さく呟いた言葉に、驚いてすぐに言葉がでませんでした。ですがいつかは来ることで、早くに動かなければならなくなっただけです。私は匡の肩を掴んで指示をした。

「上級悪魔の巣窟をすぐに探します。それまで仕事は受けないので、持ち堪えてください」

「導さん、守には言わないでください」

 俯いているので顔が見えませんが、声から察するにかなり状況は切羽詰まっているのかもしれません。他言はしないと約束し、武器の入ったケースを担ごうとしましたが、予想以上の重さに片手では持ち上がらず、バランスを崩してテーブルに手をついたあたりで匡が顔を上げた。

「あ、それ重いですよ。導さんだと片手で持とうとして肩を脱臼する恐れがあります」

「そういう事は先に言ってもらえませんか?」

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