第34話 速読と記憶力
「導さん、匡さん大丈夫ですかね。あんなに深い傷を負った後で……こんな記録を見て」
匡さんが書斎から出て行った後、僕は導さんと上級悪魔についての資料を読んでいる。
だが一緒に読んでいるのではなく、導さんがデスクに座り僕は導さんの後ろから画面を覗き込んでいるのだ。正直に言うとほとんど見えない。
「寝れば大丈夫な子ですからね、心配いりませんよ」
クスクス笑いながらさっさと資料を読んでしまうため、僕はまったく理解できないままだ。早読みにも程がある。
「あの、僕ほとんど読めていないんですけど……」
「私が読んでいるから問題ありませんよ。大したこと書いてありませんし、これは必要ありませんね」
そう言うと、あろうことか上級悪魔についてのファイルを消してしまった。これにはさすがに僕は奇声を上げてしまった。
「大丈夫なんですか!? これ、紅緋の動画と一緒に入ってたファイルなんですよ! 取っておくべきですよ!」
慌てる僕を無視して導さんはディスクを機械から取り出し、懐にしまってしまった。
そして僕の頭を軽く抑えた。落ち着けと言いたいのだろうか。無理だ。
「大丈夫です。守君でも知っているようなことしか書かれていなかったので」
口元は笑っているが、隠し事をしている顔だ。導さんは何か企んでいたりする時、目が笑っていない。その目は背筋がぞくりとするほど冷たくて、何も言えなくなる。
黙って頷くと、いつもの笑顔で頭を撫でられた。
「紅緋の言っていた上級悪魔の巣窟に関しては、捜索方法を考えるとして。守君に覚えてほしい事があるのです」
「紅緋の記録なら、覚えました」
映像も見て頭に叩き込んでいる。だが導さんは頭を横に振って、俺に本を持たせた。
「護身術を覚えてほしいのです」
「…………はい?」
よく見るとわたされた本は対人用護身術。思わず目が点になってしまった。
最前線に出されるのではないかと不安になったが、そうではないようだ。
理由は言わなかったが、導さんにそれだけは否定された。此処に来たとき同様、まずはマニュアルを読んでから実践を行うらしい。
「自室で読んできてください。休憩も含めて十二時間後に実践練習を行いますので、ここに来てください」
「わかりました……実践を書斎でやるんですか?」
書斎は全ての壁が本棚。ソファーにおおきなテーブル、僕がナビで使う機械もあるのだが、暴れて大丈夫なのだろうか。それとも、そこまで派手な動きが必要ないのだろうか。
「大丈夫です。守君が覚えるのに必要なスペースは確保しますので」
導さんが言うのなら、大丈夫なのだろう。大人しく自室でマニュアルを頭に叩き込んでくることにした。
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