第29話 疑心
薄暗い資料室で、また明かりも付けずに導さんは本を読んでいた。ため息をつきながら明かりを付けたが、集中しているのか俺に気づいていない。
「導さん、紅緋についての報告です。守が見つけた記録に紅緋についての詳細が……っ!」
報告をすればこちらに気づくだろうと導さんのすぐ側まで近づいた瞬間、俺は導さんに肩を強く掴まれた。
普段ならこれくらいで驚くはずはないだろうし、導さんの瞳の中に驚愕と不安の色を見て、いつもと違うと直感的に感じた。
「ど、したんですか?」
「……あ、ああ、すみません。集中していたので驚いてしまいました」
何か言いたげに俺を見ていたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、肩から手を離して本に視線を戻した。導さんも何か新しい発見があったのだろうか。
鈍く痛む肩をさすりながら改めて先程の報告をすると、導さんはやっぱり、と言いたそうな顔で頷いた。
「俺が研究所に一人だったのは俺が研究員も食べたってことですよね、普通に考えて。だとすると、後の脅威は俺以外の上級悪魔のみですね」
紅緋がいないのなら、後の問題は道連れ悪魔といつ現れるかわからない上級悪魔のみ。まだ遭遇したことのない上級悪魔がどれ程の強さかはわからないが、どうにかなるだろう。
「そうですね。匡と守君なら上級悪魔も問題ないでしょう」
「その口ぶりだと守をずっと此処に置いとく気ですか? 守はいいとして死神がうるさそうですけど」
思わず苦笑してしまう。導さんは守を返す気が無いように見える。結局は本人の意思を尊重するだろうから、俺は心配はしていないが、死神には勘違いされて怒鳴られそうだな。
「可能であれば守君はずっと此処にいてほしいのですが、そうはいきません。道連れ悪魔の件が片付いたら返しますよ」
いつもの笑顔だが、目は笑っていない。守が死んだら真っ先に俺に連れてくるよう命じるだろう。
欲しいモノや通したい提案はあの手この手で手に入れ、可能にする人だ。そう考えるとあの死神は苦労しているのかもしれないな。
「ところで匡、いつまでその格好でいるつもりですか。いい加減に着替えてきなさい」
言われて思い出すが、俺は自傷したままの格好だった。報告したら着替えようと思っていたが、つい血が流れていないと自分が血まみれだという自覚がない。
上着もちゃんと洗ってから返さなければならないのに、ずいぶん時間をおいてしまった。
「すみません。すぐ着替えてきます」
「……傷はもう大丈夫ですか」
「ああ、平気です。いつでも外に出られます」
どうせ言っても心配するだろうから、直接ふさがった傷口を見せて笑って見せた。それで納得したのか、導さんは笑って頷くと資料室を出て行った。
一冊の本を手に持ったまま。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます