第26話 悪行

 研究員の記録と言っても内容は日記のようだった。研究を開始してからの日付と匡さんともう片方の悪魔の経過が記されており、最初は新開発した武器の性能や効果の結果が記されていた。

「火炎放射器で何時間も燃やしたが消失せず、すぐに回復。回転する刃物で切り刻むも消失せず、回復……」

 文字だけでも想像して気持ち悪くなってしまう内容が続いた。それでも我慢して読み進めると、低級悪魔に人の魂を食べさせ始めたところで突然白紙が続いた。

 あまりにも突然だったので後ろに何か書いていないか確認したが、最後のページが真っ黒に塗りつぶされているだけだった。インクペンで書き潰したのか裏表紙と引っ付いており、塗りつぶされたと言っても全部綺麗に塗られているわけでもないので、まるで抽象画のようだ。

「これは、精神が病んだのかな……」

 導さんから聞いた話から考えると、もう研究員は病んでいたのだろう。最初は綺麗な字で書かれていたが、最後の方は殴り書きが多く読むのに時間がかかったほどだ。

「……なんかおもしろいこと書いてあったか?」

「普通の人は体験しないような内容ばかりですよ。匡さん個人の記録は無いですし、面白くはないです」

 顔を上げると、寝起きの匡さんが目を擦りながら真っ黒な最後のページを覗き込んだ。

 全体的にずいぶん古い物だから扱いには気をつけていたが、そのページは特に劣化しており、下手すると紙が崩れそうだ。持ち方にも注意していたのだが、匡さんはジッと見ていると思った瞬間そのページを引きちぎった。

「ちょっ! 匡さん!?」

「なんか見てて嫌な感じがするんだよ、これ」

 劣化しているとはいえ、ぴったり裏表紙に引っ付いていたページを片手で引きちぎるところは流石と言うべきか。それよりも記録の心配をするべきか。

 他のページは無事かと確認しようと記録を見ると、匡さんが引きちぎったページと裏表紙の間に封筒が挟まっているのを発見した。

「な、なんですかね」

 破けないように慎重に封筒を抜き、中を確認すると、小さなディスクが入っていた。何が入っているのか何も書かれていない。

「おもしろそうな物、見つけたな」

 匡さんが悪戯っぽく笑いながら僕がいつもナビで使う機械を指差した。あれで中を確認してみようと言いたいのだろう。

「すぐに起動させます」

 わざわざ隠すような所にあったのだ。重要な物に間違いないだろう。すぐにディスクを機械に読み込ませ、中身を確認してみる。

「匡さん達に魂を食べさせた記録と、動画が入っていますね。あと上級悪魔についての資料みたいなのが入ってます」

 いくつかのファルダにそれぞれのジャンル別でまとめられている記録は、間違いなく先程の記録の続きだ。まずは記録から読んでみることにした。

 意外な発見に思わず画面に食い入ってしまう、僕の後ろで匡さんも画面を凝視している。

「開きますよ」

 思わず匡さんに確認を取ってしまう。この記録の内容が一番気になるのは匡さんだろう。

 一呼吸おいて匡さんが静かに頷いたので、僕は生唾を飲んで記録ファイルを開いた。

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