第22話 向き合う時

 初めて上司に会った時、俺は本当に何も知らないガキで、目の前にいる上司が敵か味方かもわからなかった。

 けど違ったのだ。わからなかったのは当然で、何も知らないガキではなく悪魔だったのだ。気づいた時には腰に納めていた双剣を抜いていた。

「すみませんでした、匡……」

 次に目を覚ましてから、俺と上司はお互いに謝っている。永く一緒にいたのに、お互いの本心を話すことなど少なかった。

 俺は上司に、導さんに、言われるがまま行動をしてきた。それに疑問はなかったし、不満はほぼ無かった。

 だが導さんはそれも自分のせいだと言って聞かない。

「俺、導さんに見つけてもらえて良かったって思ってます」

 先程の話を思い出して、改めて思う。死神の基本的な思考は危険因子は例外なく排除。

 なので俺は導さん以外に見つけられていたら消されていたのだろう。生かしてくれただけでなく、俺をここまで育ててくれたことにも感謝している。そんな思ったことを少しずつ言葉にする。

 導さんは俯いたまま黙って聞いてくれた。

「自分が悪魔だったって記憶は無いんで、俺が食べた魂のことも全然わからないんです。さっきは動揺して自傷行為しましたが、今は片割れの悪魔を、俺が食べた魂の分まで頑張って、倒さないといけないって思ってます」

 悪魔と人を混ぜた魂なので、人の魂だけの死神より俺が強いのは当然のことだ。ならば、同じ悪魔だった片割れを倒すのは当然、俺の仕事。

 冷静に考えた俺の意思を伝えると、導さんはやっと顔を上げた。

「初めて匡を見た時は利用することだけを考えていたのですが、いつからか、我が子のように思えてきたのです。計画の話や、悪魔だった話をして匡が消えるのが怖くてずっと黙っていました。私の意思の弱さで、匡をここまで追い詰めて、本当に申し訳ないと思っています」

 俺の腹部に手を当てながら、導さんは深く頭を下げた。初めて会った時、この人は冷たくて怖い存在だったが、今では違う。

 血まみれの体を起こし、導さんと向き合った。

「俺は、追い詰められてないです。さっきは少し動揺しただけですし、俺が悪魔を始末するのは死神よりも強いから当然なんですよ」

「しかし──」

「あー! もう! いつもの導さんはどこいったんですか! 俺は導さんが思っている程ダメージ受けてないんですよ! 少し驚きましたよ、動揺しましたよ!? でもそれだけです! もう大丈夫です!」

 いつまでも暗い思考の導さんに思わず立ち上がって叫んでしまった。

 血は止まっていたので腹部から出血はしなかったが、激痛がはしり、よろめいてしまった。

 導さんが咄嗟に体を支えてくれたので倒れなかったが、思っていたよりも深い傷に驚いた。これは完治させるのに時間がかかるかもしれない。

「イテテ……すみません、思ったより酷いみたいです」

 苦笑いしながらソファーに座る。そんな俺に導さんはいつものように困ったように笑いながらため息をついた。

「しばらく仕事はないので、完治させるまで安静に。いいですね」

 いつも通りの導さんに俺は思わず笑って頷いた。

 俺と導さんがお互いに謝って暗い空気でいるなどらしくない。俺は改めて導さんの話をきちんと聞かなければいけないんだ。

「導さん、守がいないってことは、さっきの話の続きがあるんですよね。俺、もう何を聞いても動揺しないんで、話してください」

 仮に動揺したとしても、自傷するための双剣は導さんが持っているので万が一もない。導さんも同じことを思ったのか、俺に先程の話の続きを話してくれた。

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