第21話 大逆無道の果て
いつかは話そうと思っていた、などと言っても言い訳にしかならないのはわかっている。
最初は利用するつもりで育てていたが、一緒にいる時間が長くなる程、情が移って言いづらくなってしまったのだ。責任の重い仕事をさせている上に、本当のことを言ったら消えてしまうのではないか。
それはつぶし合わせる計画の心配よりも、匡自身の心配をしていたから。
「自分でも、意思が弱いと思いましたよ」
濡らした布で、匡の血まみれの口元を拭いてやりながら、目が覚めた時なんて言えばいいのかを必死に考えている。
気絶する前に言った言葉が効いているのか、腹部の出血は止まり、消失する心配はなさそうなのだが、目を覚まさない。
床に落としたままの双剣を拾い、べったりとついた血を拭く。見た目よりも深く刺したのだろう、刃の付け根にまで血がこびりついている。
「最初にこれをわたした時に重いと言っていたのは、違う意味だったのですか?」
毎日手入れを欠かさずにしているだろう双剣は、匡にあげた初めての武器だ。
剣術も知識も人の感覚も、全部、私が教えたのだ。
「全部、重かった……ですか」
乱れた髪を撫でながら呟くと、うっすらと目を開けてくれた。まだ意識がはっきりしないのか、虚空を見ている。
「匡、気がつきましたか」
少ししてから声をかけると、ゆっくりとこちらを見た。
そして開口一番謝ってきた。
「すみません……動揺、しました……」
「謝るのは私の方で……匡は謝らなくていいのです」
そう、全ては私のせいなのだ。だが匡は首を横に振って、再度謝った。
「俺が消えたら代わりはいないって、言われてたのに……悪魔とかに消されるとかじゃなくて、自分から消えようとして……しかも、俺に食われた魂のこと、何にも考えてなくて……ただ、自分が悪魔だったって、聞いて……消さなきゃいけない危険因子だろって、自分で思って……そしたら、もう……無意識に刺してて……」
両腕で顔を覆いながら泣きそうな声で匡は話してくれた。追い詰めたのは私だ。
匡の言葉の一つ一つが私の心に刺さって痛い。
だが、匡自身には更に辛い思いをさせていたのだ。何も言う権利はない。
「上司が……導さんが、止めなきゃ、消えてたし……消える気でいたし、ほんとに……止めてくれて、ありがとう、ございます……」
「……匡、私のせいです。匡に重いものを背負わせたのも、ここまで追い詰めたのも、全部、全部、私のせいなのです。だから、謝らないでください。感謝しないでください」
匡が私のことを上司、と呼ぶようになったのは守君を匡から切り離してから。
守君が此処に戻ってきた影響で匡が以前のような感情を取り戻し始めているのならば、やはり先程の話はするべきではなかったのだろうか。
だが、いつかは話さねばならなかった。今後の話をするうえで、必要なのだ。
「導さん……俺が弱いのがいけないんです」
匡の言葉に俯いて頭を抱えてしまう。なんて言って話せばいいのか皆目わからないのだ。
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