第18話 死神直属機関三獣隊の連絡係
死神本部の片隅に建っている黒く縦長の建物。窓は無く、入口の扉以外の装飾はない。
現世の物で例えるなら文字の彫られていない固形の墨を立てにしたような建物だ。現世の人から見たらバロック建築の中にあるアレは、異様な建物だろう。死神の私も同じ意見だが言葉にはしない。
この異様な建物は三獣隊の隊長、野登導の体の一部なのだから。機嫌を損なうと面倒なのだ。
「今度の依頼については以上だ………新人はどうだ」
「……順調に仕事を覚えていますよ。ナビとして、ね」
建物から出られない野登導に要件がある時は、死神が赴く。死神時代の同期だったというだけで、私はすっかり三獣隊と死神との連絡係にされている。こいつは同じ死神だった時から何を考えているのかわからない。
テーブルを挟んで向かい合わせに座っているが、一度もこちらを見ない。依頼書を確認しながら意味ありげに笑むが、メガネの奥の瞳は笑っていない。油断できない奴とはこいつのことだろう。
「なぜナビを死神から
「死神を此処に入れたくなかったというのが一つ。匡と相性のいい死神はいないというのが二つ。死神から抜擢すれば、死神本部から連絡係として此処に来る貴女が来なくなる可能性があるというのが三つ──そんなところです」
「三つ目は嫌がらせか? それに狩崎氏と相性のいい奴が、あの新人というのか? 上級悪魔対策にナビをつけるよう言ったのは私たちの方だが、現世の人を仮死状態にさせる必要はあったのか? 別の人材は見つからなかったのか?」
死神としては、今のこいつがしている事に黙っていられない。
いくら適応があったからと言っても、寿命がまだある人を仮死状態にして此処に連れてきているのだ。現役の死神として口出しせずにはいられない。
「どうしても守君がよかった──それは最初に私が提出した書類を見ているのだから知っているでしょう?」
そうだ。こいつは最初、仮死状態にするのではなく残りの寿命を無くして此処に連れてきてほしいと申請してきたのだ。私はもちろん上の死神も納得いかなかったが、こいつは一歩も引かず、結局仮死状態で連れてくることにしたのだ。
新人は私たち死神の介入がなければ、こいつに殺されて連れてこられるところだったのだ。
「紀川守と、新人の子に名付けたのだけど、なかなかいい名前でしょう? 匡と仲良くしているし、何も問題はないから口出しをしないでほしいのですが」
「名前や狩崎氏との相性について口出しをしているのではない。お前の考えを全部話せ。前のように事件が起こる前に、だ」
「それは貴女の個人的な興味ですか? それとも上の死神の指示ですか?」
「どちらもだ。狩崎氏の時は此処だけの問題で片付けてやったが、紀川氏はまだ生きている人間だ。何かあれば上も黙っていないからな」
脅すように言えば、こいつはため息をついてこちらを見た。
話す気になったのかと思えば、そうではないようだ。笑顔で依頼書を返された。
「守君の件に関しては報告書を出しますが、提出してから私の考えを却下するようでしたら、この依頼は受けません」
こいつはいつもこうだ。今度は私がため息をつくことになった。
「まず私が報告書を見てから、上に報告するか決める。それならいいだろう」
依頼を受けてもらわないと回収がままならない。元死神故に、こいつは痛いところを知っている。今回も私はこいつに負けた。
「眉間に皺をよせると、せっかく綺麗な顔が崩れますよ。女性だということを自覚していますか?」
「うるさい。早く報告書を作成して提出しろ。提出するまで帰らないからな」
椅子にふんぞり返ると、やれやれと言いたげな顔で報告書を作成し始めた。よし、久しぶりに勝った。
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