第17話 残心

 自分が生前何をしていて、何者だったのか、まったく記憶がない。気がついた時から三獣隊にいて、上司がいた。

 もう何千年前のことだろうか、まだガキだった俺に上司は名前と知識、武器をくれた。

 大きな双剣が重たくて、仕事内容の責任が重たくて、判断が鈍って悪魔に片腕を持って行かれた時は消えるのを覚悟したものだ。

「此処では外傷での消失は無い。気の持ちようで完治できる」

 死後の世界で恐れることは魂の消失だと理解した時、俺は今の守のように怖くなって仕事がまともにできなくなった。悪魔は怖くないのだが、自分のミスが怖くて怖くてたまらなかったのだ。ミスを気にするあまり動きがぎこちなくなり、結果救えるはずの魂を悪魔に食われた事が立て続けに起こった。

 それがきっかけで自室に引きこもったが、上司がそれを許さなかった。

「せめて仕事をしてから引きこもりなさい」

 まだガキだった俺は駄々をこねて嫌がった気がする。今より厳しかった上司は、俺に選択を迫った。

「一晩寝て、起きた時にまだ仕事が怖かったら此処に引きこもってもいいですが、入口を塞ぎます。怖くなくなっていたら仕事に出なさい」

 此処に閉じ込められるより仕事に出ることが嫌だった俺は、素直に頷いて寝た。もう一生此処から出られなくなると覚悟して寝たのだが、次に起きた時に恐怖はなくなっていた。

 上司の脅しのせいか、仕事をしなければいけないと思う様になっていたのだ。

 自分でも不思議だった。一晩寝ただけで、仕事への恐怖だけがぽっかり無くなってしまったのだ。

「今思えばあの時の俺は、今の守だな」

 手入れの終わった武器を片付けながら、先程までいた守の話を思い出す。他人事と思えないのは、昔の自分を見ているからなのだろうか。

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