第15話 閑話

「僕が来る前って、ナビはいなかったんですか?」

 お昼時、珍しく食堂で三人が揃ったので、なんとなく疑問に思っていたことを聞いてみた。

 伊万里さんの料理を待っている間は暇なので、なんとなく気になることなどを聞いているのだが、いつも匡さんしかいない。けれど今日は珍しく導さんがいるので、仕事以外のことをいろいろ聞いてみたい。

 さすがに書斎では仕事以外のことを聞きづらいのだ。

「私がナビをしていたのだけれど、他の仕事が遅れてしまうので辞めたんだ」

「上司がナビをしなくなってからは俺単独で動いていたから、ナビは守がくるまで不在だったな」

「匡は単独だと無茶をするから、今とは逆に怪我をしない日はなかったよ」

 導さんがやれやれと言いながらメガネをかけなおしたところに、伊万里さんが料理を運んできてくれた。

 導さんは釜玉蕎麦、匡さんは豚キムチ丼、僕はカツカレー。頼めば何でも作ってくれる伊万里さんは本当にお母さんのようだ。

 両手を合わせてから食べ始める。匡さんはいつも大盛りだが、なぜか食べる早さは僕らと変わらない。

「別に怪我しても此処で寝れば治るから気にしなくてもいいんですけどね」

「匡が良くても私と守君が気にする──いや、心配するんだよ」

 どうやって食べているのか、導さんは音もなく蕎麦を食べている。いやまず導さんが物を食べているのを初めて見た。なんだか貴重だ。導さんは仙人みたいだし。

「それに今はナビの守君がいるとはいえ、変わった悪魔が出てきたからね。油断はしないでほしいところだ」

「ああ、やけに俺を道連れにしようとする悪魔ですか。あれ何ですかね。普通は存在を保とうとして俺から逃げるのに」

 ここ最近よく出る道連れ悪魔。匡さんが瀕死の悪魔に捕まるはずはないのだが、心配はしている。中級悪魔はともかく、まだ遭遇していない上級悪魔の時は状況によってはわからないだろう。

「死神に報告したところ、匡がいる時だけその悪魔が出るらしい。その理由を調べる必要があるね」

「今までこんなことなかったですもんね」

 これだけ話しているが、黙っている僕と二人は食べるスピードが同じことに驚く。いつ口に物が入っているのかわからないくらいだ。

「ごちそうさまでしたー」

「伊万里さん、今日も美味しい料理をありがとう。ごちそうさまでした」

 道連れ悪魔について二人が話しているのを聞いているだけだったが、なぜか二人が先に食べ終わった。何故だろう、ひたすら食べていたのに追い越されるとは。

 あの二人には何でも勝てない気がする。

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