第13話 不快な恋慕

 仕事を覚えるスピードは人それぞれだが、守は天職なのかやけに早い。それは俺たちには嬉しいことだが、守にとってはどうなのか。

 最初の頃は心配したが、どうやら慣れたようだ。

「──匡さん! 後ろから一体来ます!」

 的確なナビ。そして遠隔攻撃と煙幕でのサポート。俺が無傷で悪魔を始末することが最近は当たり前になった。

 広い交差点での戦闘では守のナビが本当に助かるのだ。次々と走ってくる現世の車をかわしながら背後からの悪魔にナイフを投げる。運良く眉間に刺さってくれたおかげで一刀で始末できた。

「守! 後はいないか?」

 死神の回収作業は完了しているが、周りにいる悪魔は始末しておきたい。守がすぐに調べていないことを伝えてきたから、これで俺の仕事は終わりだ。

「いつ見てもキレのある戦い方するよね」

 帰るために交差点から路地に入ると、短い金髪を右手で弄りながら笑顔を向けてくる死神が一人いた。身の丈以上の大鎌を持ち直しながら顔を近づけ、俺の頬についた悪魔の返り血を舐めてきた。

「悪魔の血は不味いのに、匡についた返り血はなんで甘く感じるのかな?」

「お前の気持ちの問題だろ。気持ち悪いから離れろ」

 俺の返答に腹を立てたのか、死神は大鎌を俺の首に突き付けて壁に追いやった。死神に乱暴するわけにもいかないので、口でしか抵抗できないのが苛立つ。

「匡が死神だったら良かったのに。こんなに好きなのに、三獣隊だってだけで付き合えないのって辛いんだよ」

 導さんの命令さえなければ、こんな女すぐ事故死として消してやるのに。そんなことを思ってナイフを握ると、大鎌がすぐに離れた。

「……匡が導さんの命令を無視することはないって知ってる」

 そうは言っているが、警戒はしているようだ。俺に密着していたが数歩離れて大鎌をかまえてナイフを凝視している。

「わかってるなら、そこまで警戒しなくていいだろう? 埜田 華有希」

 俺がナイフをしまいながら笑うと、逆に埜田は青ざめた。それもそうだろう、埜田華有希はこの死神の本名なのだ。

「待って、な、なんで……? やだ、匡……助けて!」

 狭い路地で死神がみっともなく泣くところだった。汚い泣き顔を見る前に大蛇のような悪魔が死神を一飲みして消えた。

「悪魔がいそうなところで本名を声にすれば、すぐに悪魔に食われる。死神の新人研修で習ったことを違反した自分が悪いんだからな」

ため息をつきながら頬についたあの女の舌の感触を袖で拭ってから帰還した。

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