第9話 善意の言葉

「俺が行く前に、守に何を言ったんですか?」

 此処のことや俺たちのことを説明した後、守は具合が悪そうに書斎を出て行った。一般人とはいえ、そんなにダメージのある話はしていないつもりだったのだが、なにか上司が言ったのかもしれない。

「何も? ただ、守君の失敗で消える魂があると言っただけだよ」

 この上司はこれだから困る。

 元々まじめそうな守はこの言葉で緊張していたのかと思うと、先程の話は自分のせいで消失する魂の存在と、その責任の重さで具合が悪くなったのだろうと納得した。

「そこまで守にプレッシャーを与えなくても、俺は悪魔には食われませんよ」

「わからないだろう? いままでナビ不在で単独で無茶をしてきたんだ。もうナビがいる今は無茶をすれば今日のように雷を落とすからね」

 たしかに無茶な戦闘をして食われかけたこともあったが、別にそれは過去の話。同じことをするつもりはないが、この上司は俺を信用をしていないようだ。

「さっき守を此処に連れてきた理由を話さなかったのは、敢えてですか」

「私たちの話だけでまいっていたようだったからね。それに、あの世でもある此処の空気が守君の魂と合っているから呼んだ、と話せば彼はどう思うだろうね?」

 悪い笑みを浮かべる上司が悪魔に見えるが、後半は同感だ。守には悪いがもう少し話すのは先にしておこう。ため息をつけば、上司はクスッと笑った。

「死神にナビが来たことを報告したから、中級以上の悪魔狩りの依頼がくるだろうね。また仕事がきたら指示をだすから、その間に守君の教育を任せたよ」

「……了解」

 此処の空気が合ってしまったばかりに死神に仮死状態にされた守は気の毒だ。まじめなその性格が悪い方向へいかなければいいのだが、心配ではある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る