第5話 暗記

 十二時間とは長いようだが、初めて知る機械の仕組みや僕の世界には存在しない三獣隊の仕事を全て覚えるには短い。

 例えるなら、小学生が大学受験をする程の難易度だ。

 だが手を抜くわけにはいかない。導さんが言っていた、ある程度の仕事が終わったら蘇生する。あれは逆に仕事が終わらなければ蘇生しない。ということだ。

 ここがあの世なのかどこなのか知らないが、蘇生してくれないとこのまま死んでしまうのは困る。会社の夏休みは残り二日だった。それまでに蘇生しなければ、無職になる恐れがある。

 他に困ることはないが、無職で実家に帰るなんてことは絶対に避けたい。田舎に帰るなんて、ここ数年連絡を全くしていない両親に何を言われるかわかったものじゃない。

 田舎のご近所に情報や噂が知れ渡る早さに比べたら、十二時間なんて優しさしかないんじゃないかと思えてきた。

「あと八時間か」

 だけどあまり無駄なことを考えている時間はなさそうだ。頬を叩いて、より集中するとしよう。

「導さんも匡さんも、怒らせたら怖いタイプっぽいしなぁ」

 自分のいた会社の鬼上司を思い出して、身震いをしてしまった。

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