第2話 運否天賦

 一週間の夏休み中、節約しようとエアコンをつけなかったのが敗因だろうか。一人暮らしの僕は誰にも知られず自宅で倒れた。

 この時、臨死体験はネットやテレビでよく聞く話だが、実際に体験することになるとは思わなかった。





「今日からここで働くことになりました、紀川徹のりかわとおるです」

 薄暗い部屋に案内されたと思ったら、優しそうな笑みをうかべるメガネの男と、視線で人を殺せるのではないかってくらい怖い男が僕を待っていた。本当にここで場所を間違えていないか不安になる。

 倒れた後、気がついたら真っ白な所に立っていた。そこにいたスーツを着た見知らぬ男に、簡単な仕事をするよう言われてここに案内されたが、地獄だったらどうしようか。

「紀川……徹、か。ここでは本名を名乗るのはご法度だ。まず命名からだな」

「そうですねぇ……かみ、というのはどうですか? 紀川守。これからの仕事にぴったりでしょう?」

 守と一字だけ書いた紙を見せられたが、よくわからないのでただ頷くしかない。命名から始まる仕事ってなんだ? 思わず疑問が顔に出たのか、目つきの怖い男が一冊の本を投げてきた。

「ここは三獣隊さんじゅうたい。死んだ人の魂を盗み食いする悪魔を始末する死神直属機関だ。守、お前には三獣隊のオペレーターになってもらう」

 目の前の本にはパソコンの様な機械の名前の説明書と書かれている。思わず目が点になった。

「そして、こちらが上司の野登みち。俺は狩崎きょう、お前の教育係だ。仮死状態のところ悪いが人手不足なんで、即戦力として働いてもらうぞ」

「ある程度の仕事が終わったら蘇生するので、まだ生きていると思っていてください。あ、私のことは導さん、もしくは上司って呼んでください。ここでは下の仮名で呼び合うので」

 にっこり笑う上司の導さんと、面倒くさそうにため息をついている匡さん。よくわからないまま僕はこの二人の元で働くことになった。仕事は匡さんのナビだと言われた。

 ああ神様、僕は何かしたのでしょうか?

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