第36話 開幕、ユーリの実力や如何に?
リューヤたちは試合開始を待ちながら、ユグドラシルの狙いについて話し合っていた。
「ユグドラシルの目的は恐らくヴェルナーだろうな。世界最高の術士である奴を倒せばその名を世界に知らしめることができるだろうからな……」
そう冷静に分析するのはリューヤだ。
「でも、ヴェルナーって凄いんだろ? 世界最高だぜ、世界最高! あのユーリって奴がどんだけ凄いのかは知らないが、いくらなんでも無理があるんじゃないか?」
そう言って懐疑的な視線を向けるクロードに対しリューヤが答える。
「だが、倒せる確信があるからこそ、ユグドラシルはこの大会にあいつを送り込んできたんだろう……ことによると、これはヤバいかも知れんぞ?」
「ヴェルナーが負けるわけない!! 彼はねぇ、とっても強くて……カッコ良くて、何から何まで最高の男なのよ!!」
「そ、そうだといいな……はは」
ファン根性丸出しの口調で捲し立てるシルヴィに、リューヤは若干引き気味になりながら乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
「どっちにしろ、ヴェルナーに忠告っていうか、警告してあげた方がいいんじゃないかな?」
ピリアの提案にリューヤは腕を組み唸る。
「だが相手は有名人だ。俺たちが行って会えるのか……」
リューヤの言葉はもっともであった。実際ヴェルナーの周囲では関係者が目を光らせており、不審者は元よりファンであってもそう易々と近づくことはできないだろう。
というよりもし彼らがヴェルナーに気軽に接触できるのならば、シルヴィが真っ先に会いに行っているはずだ。
「いったんハンターギルドに連絡を入れてヴェルナーに会えるよう取り計らってもらうとか……」
今度はクロードが提案するが、しかしリューヤはやはり難しい顔で答える。
「それも難しいな。結局のところ今俺たちが考えてるのはただの推測でしかない。ただの杞憂だと一蹴されればそれまでだ。最悪門前払いの可能性すらあるぞ?」
「うぐ……」
言葉に詰まるクロードを見てリューヤは小さくため息をついた。
「どちらにしろ、今俺たちに出来ることは、事の成り行きを見守ることだけだ……もし何かあってもすぐに動けるように準備だけはしておくがな……」
その言葉を受けクロードも渋々頷くしかなかった……。
*
術士の大会のルールは実にシンプルで、一対一で試合をし先に相手を戦闘不能に追い込んだ方の勝ちとなる。
要するに格闘技の試合と同じなのだが、そこは術士の大会。会場に設置された計測器で選手の魔力が計測されており、それが一定値を下回っていた場合カウントが取られ超過した場合は失格扱いとなる、というルールが採用されている。
つまり、選手は試合中常に身体から魔力を放出し続けないとならないというわけである。
肉体的な強さを頼りに、魔力を使わない戦い方をしていた場合失格となるために、ただ強いだけでは勝ち残ることができないのである。
大会では武器や魔力を増幅させるような装備、アイテムの類の使用は禁止され純粋な魔力の戦闘技術の競い合いが繰り広げられる。
対戦相手の殺傷は禁止されているが、それ以外には基本的に何をしてもかまわない。
バトルフィールドは何重にも張られた結界によって形成され、試合中の損害を結界の外には波及させないシステムとなっているために、大技の使用も可能となっている。
とはいえ、選手の安全が第一なので、危険と判断されるレベルの負傷をした時点で試合終了になり、その選手はすぐに退場させられ、腕利きの医療班によって速やかに治療されるようになっている。
そのために長い歴史を持つ大会ではあるが、今まで運営上の問題が持ち上がったことはない。
試合はトーナメント形式で行われ、まず予選が行われる。
予選トーナメントは会場をA~Hまでの8つのブロックに仕切りそれぞれの試合が同時に進行していく。
そして、各ブロックの優勝者が翌日行われる決勝トーナメントに進出できるのである。
そして、Aブロック第一試合、いきなりリューヤたちの注目するユーリの出番がやってきた。
「それでは、学生術士大会、予選トーナメント第一回戦を開始します! 各選手の皆さんは準備はよろしいですか!?」
スピーカーから実況役の興奮した声が聞こえる。いよいよ試合直前となった会場の雰囲気が最高潮に盛り上がった。
それぞれのブロックで選手たちが構えを取り、合図を待ち構えている。
「レディーゴー!!」
という合図と同時に試合が開始された。
各ブロックで選手同士の戦いが開始される中、Aブロックではユーリと対戦相手の少女がにらみ合う形となっていた。
「なぜ動かないの? アタシが女だからって舐めてるわけぇ?」
一向に動こうとしないユーリに少女が訝し気な表情で問いかける。それに対してユーリは静かに首を横に振り、答える。
「そういうわけじゃないよ。ただどういうふうに戦おうかって考えてただけさ」
そう言ってユーリはニヤッといたずらっ子のような笑みを浮かべる。それを見た少女もまた不敵な笑みを浮かべた。
(ふぅん、ずいぶん余裕じゃない。それともただのおバカさんなのかも……?)と少女は考え、一気に畳みかけるべく魔力を放出させた。
彼女の魔力が凝縮し周囲の空間を歪める。
どよよっと会場からどよめきの声が上がる。
他のブロックの選手たちも思わず手を止めて注目している。
そして少女はそのまま魔力弾を放った! 少女の放った術がユーリに迫る。しかしユーリは余裕の表情で構えているだけだ。しかも避けようとすらしていない……!?
(馬鹿なやつ……!)
少女は勝利を確信した。しかし――次の瞬間、パアンッとユーリに当たるはずだった魔力弾は彼の直前で霧散した。
「んにゃっ!?」
驚いて目を見開く少女。しかし気を取り直し続けて術を放とうとするが……それより早くユーリが軽く腕を振るう。
ゴオオッ! その瞬間凄まじい突風が巻き起こり、少女を吹き飛ばす。
「ぶへっ……」
少女は会場を区切る魔力結界に衝突し、目を回して倒れてしまった。
その様子を会場の人々は信じられないといった面持ちで見つめているのだった……。
*
「す、すげぇ……」
ユーリの鮮やかな手並みに、クロードが感嘆の声を漏らす。
「確かに、かなりの実力の持ち主ね。ユグドラシルが送り込んで来るだけの事はあるわ」
シルヴィもそんな感想を漏らすが、リューヤは顎に手をやりながら彼らに向けて言う。
「だが、あくまでも学生レベルだ。あれが奴の全力だとするならヴェルナーどころかシルヴィにも手も足も出ないだろうな」
「まあね、あの程度ならあたしでも出来るわね。でも、あれがあの子の全てなわけはないわよ、現にあの子は汗一つかいちゃいないんだから……」
そう言ってシルヴィが指さす先で、ユーリは涼し気な表情を崩してはいなかった。
「むぅ、奴の実力を測るにはまだ情報が足りないって事か」
クロードが呻きながら会場へと視線を向けると、ユーリは意気揚々と会場を後にしようと踵を返した所だった。
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