第14話 覚醒
「うぐ……あっ……」
巨大グモの脚に腹部を貫かれたシルヴィは、ビクンと大きく
「う、嘘だろ? シルヴィ?」
クロードは呆然と呟いた。
巨大グモがその脚をシルヴィの腹部から引き抜くと、シルヴィはそのまま地面に崩れ落ちた。
そして巨大グモは再び脚を大きく上げ、今度はシルヴィの頭部に向かって勢いよく下ろす。
(あ……あたし、死ぬんだ……)
シルヴィにはまだ意識があった、しかし、もう体の痛みも何も感じない、とっくに限界を超えているのだ。
(結局、パパにもう一度会えないまま死んじゃうんだ)
シルヴィはぼんやりとそんなことを考えていた。
シルヴィの脳裏に今までの人生が走馬灯のように駆け巡る。
(パパ、あたし、嫌だよ、会ってちゃんと話ししたいのに、聞きたいこともいっぱいあるのに!)
巨大グモの脚が今まさにシルヴィの頭に落とされようとしていた、一瞬の出来事だというのにシルヴィにはそれがとてもゆっくりした動きに感じられた。
シルヴィは目を閉じ、涙を流す。その時。
『情けないやつだな、この程度のやつにやられて』
頭の中に声が響いた。
(だ、誰?)
シルヴィは心の中で問いかける、声はシルヴィを嘲笑うように言う。
『お前が知る必要はない、だが、このままでは面白くないのでな、少しだけ力を貸してやる、ありがたく思えよ?』
(え、ちょっと待っ……!?)
そこでシルヴィの意識は途切れた。
巨大グモの脚がシルヴィの頭を叩き潰した、リューヤたちの目には確かにそう見えた。
クロードは目を閉じピリアは目をそらす、そしてリューヤはただ見つめるだけだった。
(守れなかった、また、俺は……!)
リューヤは唇を噛み締める。
しかし、次の瞬間、突然巨大グモの脚が吹っ飛んだ。
「な、なんだ……?」
リューヤは呆然と呟く、その目の前でシルヴィがゆっくりと立ち上がる。
次の瞬間、シルヴィの身体に絡みついていた糸が弾け飛ぶ。
「な、何なのこれ?」
シルヴィに目を向けたピリアが戸惑いの声を上げる。
様子がおかしいことに気づいたクロードも目を開ける、そしてシルヴィを見た。
シルヴィからはどす黒いオーラが溢れ出している。
「こいつ、まさか……」
リューヤはシルヴィを見て呟く。
「シルヴィなのか!?」
クロードの驚きの声が重なった。
信じられない光景であった。腹部を貫かれ、完全に致命傷を負ったはずの少女が何事もなかったかのように立ち上がったのだ。
俯き、戦闘で乱れた髪によってその表情を窺い知ることはできないが、巨大グモを見上げるその瞳はまるで獲物を狙う肉食獣のように爛々と輝いているように見えた。
「シルヴィ、どうなってるんだ!?」
リューヤが問いかけるもシルヴィは反応しない。
「シルヴィ、しっかりしろ! シルヴィ!」
続けてクロードも呼び掛けるが、やはり同じだった。
ピリアは事態について行けず、シルヴィと巨大グモに交互に視線をやっている。
巨大グモはゆっくりと脚を再生させると、再びシルヴィに襲いかかった。
シルヴィはそれをひらりと
そして片手を突き出した。
バンッ!!
次の瞬間、巨大グモは見えない何かで殴られたように、吹き飛ばされる。
(何っ!? 今のはシルヴィが放ったのか? しかし、あれだけの威力の衝撃波をどうやって……)
リューヤは困惑していた。
シルヴィにこれだけの力はなかったはずである。こんなことができるのならば、腹部を貫かれる前に反撃できたはずだからだ。
吹き飛ばされた巨大グモは、獲物であるはずのシルヴィの突然の変貌に戸惑ったような様子を見せるが、すぐに体勢を立て直すと、シルヴィに向かって襲い掛かってくる。
フシャアアアア!! と巨大グモが威嚇するような声を上げながら、シルヴィに向かって糸の塊を吐き出してきた。
先ほどはあっさりとシルヴィを絡めとった糸であったが、今度は彼女の体に触れる前に燃え上がり一瞬で灰になる。
「なんだか知らないがすげぇぞ……!」
クロードが興奮した声を上げる。今のシルヴィから感じられる力は、明らかに以前とは比べ物にならないほど強力になっていたのだ。
「シルヴィ……お前は、一体……」
一方リューヤは呆然と呟いていた。
そんな2人をよそに、シルヴィは糸を燃やされ怯む巨大グモにゆっくりと近づいていく、その時本体の危機を察したのか子グモたちが、リューヤたちへの攻撃を中断して一斉にシルヴィに飛びかかってきた。
しかし、シルヴィに襲いかかろうとした子グモたちは、シルヴィに近づいた途端に爆発四散してしまう。
「いくら子グモが弱いと言っても、あんな一瞬で大量の子グモを倒せるなんて……」
再びクロードが驚きの声を漏らす。
「うん、あんなのはボクにもできないよ……」
ピリアがその呟きに同意するように頷く。
「グルルルオォーーン!!」
子グモを倒された怒りか、あるいは謎の力を振るう目の前の少女への恐怖からか、巨大グモが咆哮を上げながら飛びかかってくる。
それに対して、シルヴィは慌てた様子もなく手をかざす。
ブゥゥン……その手から放たれたのは、漆黒の闇だった。
その闇の塊は巨大グモを飲み込み、その巨体をグシャグシャに押しつぶし、そのまま完全に消滅させてしまったのだった。
後には、巨大グモがいたという痕跡すら残されていなかった。
その時リューヤは見た、シルヴィの顔に笑顔が浮かんでいるのを、しかし、それは普段のシルヴィからは想像できないような邪悪な笑みだ。
(これは、まさか、あいつと同じ……? いや、馬鹿な、そんなわけがない、それに、これはあいつよりも遥かに邪悪で、強い……)
リューヤはシルヴィの姿を見て思う。
リューヤはシルヴィのこの変化と似たものをかつて見たことがあった、しかし、それとは似て非なるもののようにも思えた。
(このエレト大陸にあれがいるわけはない。となると違う現象か……。しかし……)
どちらにせよ、今のシルヴィが普通ではないことだけは明らかだった。そして同時に危険であることもまた間違いないだろうと思われた。
シルヴィの全身から溢れるどす黒いオーラは、まるでシルヴィを包み込むかのように渦巻いている。
そして、シルヴィはリューヤたちの方に目を向けた。
別段今までと違うところがあるわけでもない、可愛らしい少女の顔がそこにはあった。しかし、纏う雰囲気は確実に違っていた。
(まるで噂に聞く魔族みたいじゃないか……!)
クロードは呟き冷や汗を流す。かつて世を席巻したという人とは異なる種族、魔族。
最近は全滅したとの噂も流れているほどであり、目撃例などとんと聞かないが、恐ろしさだけは伝え聞いているのである。
クロードはその恐ろしさを想像して身震いをする。
(だけど、シルヴィは人間だ、人間だったはずだ……!)
心の中で叫ぶクロード、その時ピリアが、「シルヴィ……?」と恐る恐る声をかけた。
「シルヴィ……、お前はシルヴィ、なんだよな……?」
ピリアに合わせるようにクロードも声をかけるが、その声もどこか震えていた。
その声が耳に届いたのか、シルヴィは顔を上げると、ニィっと笑う。
それは先ほど巨大グモを消滅させるときに見せたのと同じ笑みだった。
全員の背中をゾクゾクッとしたものが走る。
しかし、次の瞬間糸が切れたようにシルヴィはその場に崩れ落ちた。
「シ、シルヴィ!」
クロードが慌てて駆け寄りその身体を抱き起し、呼吸を確認する。
「……気絶、してるだけみたいだ……」
彼の言葉通り、シルヴィは気を失っているようでスヤスヤと寝息を立てていた。
それを見てクロードはホッと胸を撫で下ろすのだった。
(あの邪悪な気配が消えている……。一体何だったんだ……?)
心の中で呟くリューヤだったが、当然答えてくれるものは誰もいなかった……。
「シルヴィ、大丈夫なの?」
ピリアがクロードの腕の中で安らかな寝息を立てるシルヴィの顔を心配そうに覗き込む。
その頭を優しく撫でながらクロードが答える。
「ああ……見ろよ、さっきあいつに突き刺された腹の傷も治ってるぜ?」
促されピリアがシルヴィの腹部へと視線を向けると、確かに巨大グモの脚が貫通しぽっかりと穴が空いていたはずの箇所には傷跡ひとつ残っていなかった。
しかし、服には確かに貫通された跡が残っており、貫かれたのが夢や幻ではないことを物語っていた。
「しかし、シルヴィにあんな力があったなんてな……。あれはいったい何なんだ?」
クロードの呟きに答えるものは誰もいない。
その時である、「う、ううん……」と小さな呻き声を上げてシルヴィが目を覚ましたのだ。
「お! 気がついたか!」クロードが嬉しそうに声をかける。
しかし……
「ん、ん、んんんんん!? ちょ、あんた何あたしを抱きかかえてんのよ!?」
ガバッと勢いよく起き上がり顔を真っ赤にしてまくし立てるシルヴィに一瞬呆気に取られるクロードであったがすぐに我に返り弁明を始める。
「いや、だってお前いきなり気を失ったんだぜ? だからこうして介抱してやってたんじゃねぇか!」
「気をうしな……ハッ! そ、そうだ、あたし確か、あのクモに刺されてそれで……」
シルヴィは自分のお腹に手を当ててみるが、そこには傷一つなくつるりとした肌があるだけだった。
「あれ……傷がなくなってる……。ていうか、あのクモはどうなったの? あんたが倒したの? それともリューヤかピリア?」
混乱した様子のシルヴィにクロードはリューヤ、ピリアと顔を見合わせてからシルヴィに向かって問いかける。
「シルヴィ、お前、まさか何も覚えてないのか?」
するとシルヴィは一瞬キョトンとしてから首を傾げる。そして自分の行動を思い出すように視線を彷徨わせながら話し出した。
「え、えっと、あたしは確か巨大グモと戦っていて……それからあいつが口から何か吐き出してきて……その後でお腹刺されて……」
そこで、ハッとした表情を浮かべて叫ぶように言う。
「そうだ! 確か変な声が聞こえてきて……」
シルヴィは自分の両手を見つめる。
「それで、なんか自分が自分じゃなくなるみたいな感覚があって……」
そこまで言って「うっ」と呻くと、頭に両手を当て
「おい、大丈夫か!?」シルヴィの肩を揺さぶるクロードだったが、彼女は「大丈夫」と小さく言うと続ける。
「気が付いたらあんたの腕の中だったのよ。よくわからないけど、助けられたみたいね……」そう言って立ち上がると自分の身体を確かめるようにペタペタと触る。
特に異常がないことを確認すると安心したように息を吐いた。
(助けたか、助けられたのはオレたちの方だけどな……)
そう思うクロードだったが、先ほどのことはなんとなくシルヴィには言わない方が良さそうだと判断すると別の言葉を口にすることにした。
「……まぁいいや、とにかく無事で良かったよ」クロードはそう言って笑いかけたのだった。
それを聞いたシルヴィは少し照れくさそうにはにかんだのであった。
クロードとシルヴィのそんなやり取りを眺めていたリューヤは、安堵のため息を吐きつつ考えていた。
(とりあえず、シルヴィは完全に元に戻ったようだな。しかし……)
先ほどのシルヴィが口にした言葉の中で、気になる部分があった、それは変な声が聞こえてきたというところである。
(……まさかな)
リューヤには心当たりがあった、シルヴィの身に何が起こったのか。
(あれは、あいつが魔王の力に飲み込まれたときに似ている、まさか、シルヴィに魔王の呪いが? いや、そんなはずはない、魔王の呪いはあの島だけの話だ、大陸では魔王カオスロードの伝説は残っていても、呪いなんて聞いたことがない)
リューヤがいたジェイポス島にはそういう呪いが存在していた、人間に魔王の力が宿りやがて魔王と化してしまうというもので、その力に呑まれた人間は理性を失い破壊衝動に支配されてしまう。
しかし、大陸では魔王など実在すら疑わしい伝説の存在と化しているし、魔族も絶滅したという噂まで流れている。
大陸にリューヤの知っているような魔王の呪いが存在しているのなら、魔王の存在が途切れるはずがない。
つまり、シルヴィに起こっていることは、リューヤが知っている現象に似てはいるがやはり別物という結論を出さざるを得ない。
(と言っても魔王の呪いなら解く方法はない、むしろ違うほうがいいか)
ともかく元のシルヴィが戻ってきた、今はそれだけで十分だった。
(だが、調べる必要はありそうだな……。アルミシティに着いたら、俺もフレデリックさんに会ってみるか……)
シルヴィの父親のフレデリックなら、娘の身に起こった異変について何か情報を持っているかもしれないと考えたのだ。
「ところでリューヤ。あの巨大グモのことなんだけど」
シルヴィが不意にそう切り出したことで、リューヤは思考を中断すると彼女の方へ向き直った。
「あいつを差し向けてきたのっていったい何者なのかしら?」
「さあな、ろくな奴らでないことだけは確かだろうが……」
バイオモンスターを作り出し、使役している連中などろくなものではないだろう。
しかし、その正体に関しては全く不明であった。
あの巨大クモ型バイオモンスターも跡形もなく消滅してしまった今、その手掛かりを得ることは難しいと思われた。
「というか、どうしてボクたちがここにいることわかったのかなぁ? ヘムシティでバイオモンスター倒したボクたちを邪魔に思うのはわかるけどさ、ここまで正確に居場所を突き止められるものなのかな?」
そう首を傾げながら言うのはピリアである。
リューヤたちがアルミシティに向かっていることなど知る由もないはずなのである。
「確かに、それは疑問だよな、あいつらオレたちの居場所をどうやって知ったんだ?」
同意するように言うクロード。
「まさか、誰かに後をつけられてたとか? それで先回りされたってことかしら?」
シルヴィがそう言って考え込む素振りを見せるがリューヤはあっさりと首を振った。
「それはないな。俺やピリアはもちろん、クロードだって気配を探ることぐらいはできるだろ? この3人の警戒網を掻い潜って尾行するなんてまず無理だな」
それを聞いた2人も頷く。特にクロードに至っては自信満々といった表情であった。
「じゃあどうして……?」
「可能性があるとすれば……」と再び口を開いたリューヤに皆の視線が集まる。
「ヘムシティでそれと知らずにバイオモンスター討伐の依頼を受けたのはクロードとシルヴィだ、となると、やつらはギルドで依頼の達成者の情報を照会したのかも知れん」
「ええっ? それってギルドから情報が漏れてるってこと、それに達成者の情報を照会できたとしてもあたしたちの居場所までわかるはずは……」
シルヴィが信じられないと言わんばかりに言う。
「ギルドはあれでなかなか黒い噂もある組織だからなぁ、相手の規模にもよるが、E級ハンターの情報ぐらい金を積めば簡単に調べがつくかもな」
「そんな、まさか、いくらなんでもそんなことをしたら問題になるんじゃ?」
リューヤの言葉に今度はクロードが反論する番だった。
自分たちが所属する組織が不正を行っている可能性を示唆する言葉に動揺を隠しきれない様子だ。
しかし、リューヤはその意見をバッサリ切り捨てた。
「明るみに出れば大問題になるだろうな、しかし、これほどのバイオモンスターを作れるような連中だ、かなり大規模な組織と見ていい、そんな奴らなら各方面に圧力をかけることも可能なはずだ」
「ま、まさか、ディオスコネクションじゃないでしょうね……」
シルヴィが世界最大の犯罪組織の名前を上げて言った。
ディオスコネクションならそれぐらいは平然とやってのけるだろう。
しかし、リューヤは首を振る。
「いや、ディオスコネクションは最近表社会への進出を狙ってか、裏社会の取り締まりを厳しくしていると聞くし、可能性は低いと思うが……」
「そっか、ならちょっとは安心かな」
シルヴィはホッと息を吐いた。流石にディオスコネクション相手では、自分たちだけではどうしようもないからだ。
とはいえ、それなりの規模の組織であることは間違いなく、油断はできないだろうというのが正直な感想であった。
「まあ、どんな組織かは置いておこう、それで、やつらが俺たちの居場所を正確に掴めた方法に関してだが、シルヴィとクロードの情報を得られたんだとすれば、お前たちの携帯デバイスのGPS機能を使った可能性が高いな」
「ええっ、そんなぁ」
シルヴィは自分の携帯デバイスを取り出して、まるで汚いものでも見るかのように顔をしかめる。
「お前たちの使ってるのは市販品だろ? そんな組織だったら通信会社も買収してるはずだ、やろうと思えばいつでもできる」
リューヤの言葉にシルヴィは愕然とする、確かにリューヤの言うとおりだ。
シルヴィは慌てて自分の携帯デバイスの電源を落とす。
「オ、オレも切ったほうがいいか」
そう言ってクロードも慌てて自分の携帯デバイスの電源を切る。
「リューヤのは大丈夫なの?」
聞いてくるシルヴィにリューヤは頷く。
「ああ、俺のは特別製だからな」
「へぇー、やっぱりA級ハンターって優遇されてるのねぇ」
シルヴィが感心したように言う。
「それに、とりあえず俺に関してはやつらは存在を把握していない可能性が高い」
「どういうこと?」
リューヤの言葉にシルヴィが聞き返す。
「前回のバイオモンスターの依頼にせよ、シルヴィの旅路の同行にしろ。俺は勝手にお前たちに協力してるだけだからな」
リューヤはそう言って肩をすくめた。
「ああ、そっか、そうね、リューヤは依頼とかじゃなくて親切心であたしたちを助けてくれてるんだもんね」
シルヴィは改めて確認するように呟くとうんうんと頷いた。
「そういう言われ方をすると少し照れるな……」
言って頬を掻くリューヤである。
「ちぇっ、リューヤさんはかっこよすぎだぜ」
クロードが、面白くなさそうな表情でぼやいた。シルヴィが気になる彼としては、あまりリューヤばかりが褒められるのは癪なのである。
「そんなことはない、現に今回は危うくシルヴィを守れないところだった」
言って拳を握り締めるリューヤ。
今回シルヴィが助かったのは、彼女に宿る謎の力のおかげ、つまりただの幸運に過ぎないのだ。もしそれがなければ今頃どうなっていたか……想像するだけでも恐ろしいことである。
「リューヤさん……それならオレなんかどうなるんだよ、何にも出来なかったんだぜ」
肩を落とすクロードにリューヤはふっと笑みを浮かべると肩に手を置く。
「お互いまだまだ未熟ってことだな、だが、次は必ず守るために共に頑張ろうな」
リューヤが言うとクロードが顔を上げ、
「リューヤさん……! ああ!」
と力強く返事をした。
「ちょっとちょっと、2人だけで盛り上がらないでよ、ボクだってシルヴィを守りたいんだから」
ピリアが口を尖らせる。
「あ、あたしだって守られてばかりじゃ嫌なんだからねっ」
シルヴィも負けじと言い返す。
「はは、その意気だ、じゃあ、そろそろ出発するか、とりあえずは森を抜けないことにはな」
「うん、そうだよね、いつまでもこんなところにいても仕方ないし、早く町に行きましょうよ」
リューヤの言葉にシルヴィが元気よく言う。
「よし、そうと決まれば出発だな」
そして、4人は歩き出したのであった。
4人が去った後、その場に一つの影が姿を現す。
それは一人の少女であった、その少女はクロードが温泉で遭遇した少女とよく似た容姿をしていた、しかし、温泉の少女よりも幾分年が上で温泉の少女が銀髪をツインテールにしていたのに対し、こちらの少女はポニーテールだった。
「カオスソウル覚醒の反応に来てみれば、まさかまさかのピリアとリューヤさんがいるとは……おまけに敵はバイオモンスターですか、なんという運命の悪戯でしょうか……」
無表情で淡々という少女、しかし、ほんのわずかだけ口元が緩んでいた。
「これは面白いことになってきましたね、早速あの方にご報告いたしましょう」
そう言って彼女はその場から消える、そこには最初から誰もいなかったかのように静寂だけが残った。
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