第10話 新たなる気持ちで
「シル……ヴィ……」
弱弱しい手がシルヴィの頬を撫でる、衰弱しすっかりとやせ細った手だ。その手の主の名はレイナ。シルヴィの母親である。
撫でられながらもシルヴィは理解していた、もうこの人は長くないと……。
しかし、認めたくはなかった、諦めたくはなかった……だから彼女は必死に呼びかけた、その手に縋り付き、必死に……。
「ママぁ、お願い死なないでよ……パパももうすぐ仕事を終わらせて帰ってくるから……ね? お願い、お願いよおおおっ!!」
呼びかけながら、シルヴィは、こんな時にまで何をやっているのかと父フレデリックに対して心の中であらん限りの罵倒を繰り返していた。
そんなシルヴィの心の中を感じ取ったのか、レイナはもう死の淵にいるというのに、わずかに厳しい顔で娘を睨みつける。
「シルヴィ……。あの人を……パパを責めてはいけないわ……」
ハッとシルヴィは顔を上げ、信じられないものを見るような視線を母に向ける。
「なんで、どうして!? パパは……あの男はこんな時ですら仕事を優先するのよ!? ママの身体が弱いことは知っていたはずなのに、それでも仕事で家を空けた! あたしはずっと待ってたのに!」
シルヴィの言葉にレイナは悲しげに顔を伏せる、そして小さい声で言う。
「シルヴィ……パパが何よりも仕事を優先するのには理由があるの……そして、私はそれを理解し了承しているの……だから、いいの、私は大丈夫……パパを責めないであげて……」
「理由って何!? ママよりも優先すべきことがあるって言うの!? わからない、私にはわからないよ!!」
シルヴィはあの父を――妻である自身を蔑ろにしているはずの相手である男を庇うようなことを口にする母に苛立ちを覚え、声を荒げる。
しかし、そんな娘に対してもレイナは優しく諭すように語り掛ける。
「シルヴィ……あの人にも、私にも、命に代えても守りたいものがあるの……それが何かは言えない……だけど、わかって欲しい、私も、パパも、あなたを愛しているからこそ、この選択をしたということを……」
そこまで言うと、レイナは辛そうに咳き込み始めた、もう時間がないことを悟るとシルヴィは母の手に自分の手を重ねる。
その手の上にレイナの弱々しい手が重ねられる、そして彼女はゆっくりとシルヴィの頭を撫で始める。
「ごめんね、シルヴィ……あなたを一人にして、寂しい思いをさせてしまって……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」
涙ぐみながら謝罪の言葉を口にするレイナに、シルヴィは何も言えずただ涙を流し続けることしかできなかった。
やがてレイナの手は力を失い、ぱたりと地面に落ちてしまう。
その様子を呆然と見ていたシルヴィだったが、ハッと我に返ると慌ててレイナの口元に顔を近づける。
だが、すでに遅かったようだ……レイナの呼吸は完全に止まっていた。
シルヴィは愕然としてその場に崩れ落ちる、その瞳からはとめどなく涙が溢れていた。
「うっ、うううっ、うわあああああんっ!!」
シルヴィはレイナの亡骸に縋り付いて号泣し始めた、今まで抑え込んでいた感情が爆発したのだ。
「なんでよ……」
その光景をただ横から眺めていた、現在のシルヴィが呟くように言う。
「なんで、この場面をもう一度見なくちゃいけないの!!」
そう、これは過去の出来事、7年前母が死んだその日の記憶、変えることの出来ない現実だ、シルヴィは今、夢という形でそれを見せられているのだ。
「なんで、よ……」
シルヴィは膝を折り力なく項垂れる、そして再び涙を流すのだった……。
「こうでもしないとあなたはわからないでしょう? あなたはもう一度思い出す必要があるの、ママの最期の言葉に込められた想いを……」
シルヴィはハッと顔を上げた。いつの間にか、レイナの亡骸に縋り付いて泣いていた幼いシルヴィが立ち上がり、こちらを見据えている。
幼いシルヴィは先ほどとは打って変わって能面のような表情をしており、まるで人形のようだ。その表情のまま彼女は続ける。
「この時のあたしはママが死んでしまった悲しみで、ママの言葉について考える余裕なんてなかった、だけど、今のあたしなら少しは冷静に考えられるわ……だから、あなたが今ここで考えるべきなのは、ママがあたしに伝えたかった言葉なのよ……」
その言葉を聞いて、シルヴィはハッとした表情で目を見開き、改めてレイナの遺体を見つめる。
レイナは安らかな顔で眠っている、とても死んでいるとは思えないほどだ。
(確かに、あの時のあたしはママが死んでしまったことで頭がいっぱいだったわ……)
シルヴィは先ほどのレイナの言葉を思い出しつつ考える。これは夢だが、実際に過去にあった出来事――シルヴィの記憶を正確に再現しているはずだ。ならば……。
(ママはパパが家族より仕事を優先することを了承していた……? でも、それはママがパパの事を愛していたから……それで……)
レイナがフレデリックを愛し抜いていたのなら、彼の行動を容認できたことも納得できるかも知れないとシルヴィは思った。しかし、果たしてそれだけなのだろうか?
(ママはパパを愛していた。だけど、ううん、だからこそ、もしパパが単にお金儲けが好きだからとか、自分の利益の為だけに仕事をしているのだとしたら、ママは恨み言の一つぐらいは言っていたはず……)
レイナは一見おっとりとしていて夫にも従順な妻に見えたかもしれないが、流石シルヴィの母と言うべきか、気性は激しい女であった。
そんなレイナが、家族よりも仕事を優先するフレデリックに対して不満を一切口にしなかったというのはどうにも腑に落ちない。
フレデリックの周囲にいたという『女』に関してもそうだ、レイナはフレデリックが愛人と噂されるその女と『逢瀬』を重ねていても文句一つ言わなかったし、むしろ推奨さえしていた節がある。
(つまり、ママには確信があったんだ……その『女』はパパの愛人じゃないって……。パパの仕事優先に関してもきっとそう、パパが抱える『理由』というのはママにとっても決して無視できないものだったのよ……だから、ママはそれを受け入れたんだわ……)
そう考えればすべてのつじつまは合う、しかし、果たしてその『理由』とはいかなるものなのだろうか?
そして、シルヴィにとってはもう一つ分からないことがあった。それは、何故父も母も自分にそのことを伝えてくれなかったのかということだ。
(あたしが子供だったから? 大人の事情なんて理解できないと思われていたから?)
確かにそれは理由の一つになるかもしれない、しかし、シルヴィがフレデリックに対して不満を抱えていたのはレイナも知っていたはずだ、なのに、どうして彼女はそんな大事なことを教えてくれなかったのだろうか?
(それは、どうしても、あたしには言えない事情だった……?)
そこまで考えた時に、シルヴィの頭をレイナの言葉が過る。
『あの人にも私にも命に代えても守りたいものがあるの』
『私も、パパも、あなたを愛しているからこそ、この選択をした』
導き出される結論は一つしかなかった。
「つまり……パパが抱えていた事情はあたしに関係することだった……?」
口に出し、シルヴィは呟いていた。それなら父や母が自分に秘密にしていたのも頷けはした、しかしやはりシルヴィには納得できない部分が多々あった。
まず根本的な疑問として、フレデリックの仕事とシルヴィに何の関係があるのかというものがある。
もちろん一家の長としてフレデリックが仕事に精を出せばそれだけ家には金が入ってくる、そう言う意味では間接的にシルヴィにも関係はあるだろう。
しかし、あくまでも間接的でしかないし、別にシルヴィは贅沢な娘ではなかったのだ。だから直接的には何の関係もないはずなのだ。
(やっぱりパパの『事情』はあたしとは関係ない事なの? でも、ならなぜあたしにだけ秘密にしてたのよ……!!)
思考は堂々巡りするばかりで一向に進展しない。
(駄目ね……。感情的になって考えたところで答えなんてわかるわけもない……)
シルヴィは一旦そこに関しては考えるのをやめた、それに、今重要なのはそこではない、父と母の間には確かに信頼関係があったということだ、レイナがフレデリックを愛していたのはもちろん、フレデリックもレイナを愛していた、少なくとも父が母を死に追いやったというのは不幸なすれ違いから生じた勘違いなのだろう。
(……あたしがパパを憎む最大の理由はこれで消え去った。だけど、肝心な部分はわからない……パパは本当にあたしを愛してくれていたの?)
母が亡くなってからの父の態度はわかるのだ、シルヴィはレイナの死の原因の一端がフレデリックにあると思い込んでいた、だから、フレデリックから距離を置いた。そしてフレデリックはシルヴィがそう思っていることを理解していた。自分と顔を合わせればシルヴィは嫌な気持ちになる、ならば自分はなるべく会わない方が良いとフレデリックは考えていたのだろう。その対応が正しかったかどうかはさておき、考えとしてはシルヴィにも理解できるものであった。
(だけど……ママが死ぬ前も、パパはあたしには冷たかった……)
これなのだ、シルヴィがフレデリックの愛情を信じられない理由は。
(あたしだって昔からパパのことが嫌いだったわけじゃない。パパのことは尊敬してたし、愛してもいた……だけど、パパはそれに応えてくれなかった……パパはいつだって仕事ばっかりだった……あたしは寂しかった……パパに構って欲しかった……なのに、パパはあたしのことなんかどうでもよかったんだ……)
シルヴィの目から涙が溢れてくる、それは悲しみによるものか、それとも怒りによるものなのか、本人にすらわからなかった。
(あれでもし本当にあたしを愛していたなんて言うのなら、不器用というレベルを遥かに超えているわよ……! あたしは今まで一度たりともパパと笑い合ったり、遊んだりした記憶がないんだもの……!)
どれだけ過去の記憶を遡っても、フレデリックとの思い出の中に楽しいものなど何一つなかった。
それでもシルヴィは父の愛情の片鱗でも探そうと、必死になって思い出を掘り起こしてみる。
10歳……7歳……6……。
ズキッ! と頭に痛みが走ると同時に脳裏に映像が流れ込んでくる、それはシルヴィが全く知らない光景であった。
どこかの病院の一室と思しき場所……カプセルか何かの中だろうか、何かの液体に満たされたそこからガラス越しに外の光景が見えている、夫婦と思しき一組の男女が涙を流しながらカプセルに縋り付いていた。その二人は、フレデリックとレイナによく似ていた……いや、似ているどころではない、シルヴィの知る二人より幾分若いだけの二人がそこにはいたのだ。
(知らない……こんな光景あたしは……)
シルヴィは病院とは無縁だった、こんな治療カプセルの中になど入ったことはないはずだ。
しかし、二人ともなんと悲痛な顔をしているのだろうかとシルヴィは他人事のように思った、これではまるで……。そう、まるで自分が死にかけているような……。
シルヴィは考えてみる、この光景の意味を。これはおそらく記憶だ、自分が憶えていないだけで過去に体験した出来事なのだろう。
(昔、あたしは死にかけたということ? そんな馬鹿な、自分が死にかけるなんて大きな出来事を忘れるはずがないわ……)
そこまで考えてシルヴィは愕然となる、記憶が、ない。6歳から以前の記憶がないのだ。
(ちょ、ちょっと待ってよ。なんで……? なんで全然思い出せないの!? ちょっとぐらいあるでしょ、普通!!)
6歳より前の記憶が全くないなどありえないことである、6歳と言えば小学校一年生だ、多少なりとも記憶に残っていて然るべきだろうに、それすらも一切存在しないとはどういうことなのだろうか?
(まさか記憶喪失……? そうかもしれない……。そして、その原因はまさにこれなんじゃないの……?)
シルヴィはもう一度この知らない記憶の中で自分が置かれている状況を整理して考えてみる。
(原因はわからないけど明らかにあたしは死にかけている……。でも、今あたしは生きてるからここでは死なないということは確か。ただ、死にかけるような『何か』を乗り越えるのと引き換えにそれまでの記憶を無くしてしまった……。だからあたしはそれ以前のことは何も覚えてない……そういうことなんじゃ……)
辻褄は合った、だが、まだわからないことがある。
(そんなことがあったなんて、ママもパパも誰も言ってなかった……。死にかけたなんて聞かせたらショックを受けるから隠した? でも、いま生きているなら死にかけたことは笑い話で済ませられるはず……どうしてわざわざ隠す必要があったの……?)
もう一つシルヴィが気になるのは、カプセルに縋り付く両親の様子だった。あれは果たして『死にかけた娘』に向ける顔だろうか?
あの両親の顔は……『死にかけた』ではなく『死んでしまった娘』に送る表情ではないだろうか……。
(何を馬鹿なことを考えてるのよ、あたしは……だったら今生きているあたしは何なのよ……やめやめ! 変なことを考えるのは! それより、あたしが過去に何らかの原因で死にかけたけど助かったということ、それも含めて過去の記憶を失ってるという事実の方が重要だわ)
この記憶は父フレデリックに愛されていないと思っていたシルヴィにとっては重要な意味を持つ、この過去の記憶におけるシルヴィ、どう見ても手厚い看護を受けている、おそらく治療費はかなりの物であろう、それだけの金額を負担し、なおかつつきっきりで看病するということは、少なくとも愛情がないとは思えない。
あったのだ、シルヴィの中に、理由はわからないが忘れていただけで、父が自分を愛してくれていたという事実は確かに存在したのだ! それを確信した瞬間、シルヴィの胸に温かいものが流れ込んでくるのを感じた。それはとても心地良くて、今まで感じたことのないような感情であった。
(あたしは愛されていたんだ……。パパに……もちろんママにも……)
忘れている記憶の中にはもっと沢山の幸せが詰まっているのかもしれない、そう思うと、早く思い出したいという思いがシルヴィの中に湧いてくる。
(違うわね……。別に思い出さなくてもいいのよ)
シルヴィは決意をした。リューヤから教えてもらった事や思い出せた一部の記憶、母レイナの残した言葉、それらからフレデリックが自分を愛していたというのはほぼ間違いないはずだが、あくまでまだ推測の域を出ないことでしかない。
それにまだ謎はある、フレデリックは何故仕事に没頭し、シルヴィに冷たい態度を取るようになったのか? 彼に纏わりついてた女とは何者か? シルヴィが死にかけた理由、助かった方法とは何か? フレデリックとレイナがシルヴィに隠そうとした事とは?
それら全ての答えを知っている人物が一人だけいる。そう、フレデリックである。
(会いに行くしかないわね……パパに……!)
シルヴィは拳を握りしめる。その瞳の中にはもはや迷いはなかった。
(あ……、夢が終わる、意識が戻るんだわ……!)
なんとタイミングのいいことか、いや、夢なのだから目覚めるタイミングも思いのままなのかも知れないとシルヴィは思った。
要するにこの夢は彼女が決意を固めるためのもの、そして、彼女の覚悟が決まった瞬間に覚める、そういう筋書きだったのではないだろうかと。
ともかく夢の中の世界が崩壊していく、視界が真っ白になり、現実へと引き戻される感覚を覚えた。
『せっかく忘れさせてやったのにな……』
目覚める直前、誰かの声が聞こえた気がした……。
「んー、よく寝たぁ」
身体を起こし伸びを一つ、シルヴィはベッドから降りると窓に向かって歩き出す。
シャッ! と勢いよくカーテンが開かれると朝日が部屋の中に差し込み眩しさに一瞬目が眩むがそれもすぐに慣れる。
「なんだろう、今日はどこか街が輝いて見えるわ……」
窓の外にはいつもの街並みが広がっているが、何故かいつもより明るく見えた。
それはきっと今日の自分は昨日までの自分とは少し違うからだろう……。
シルヴィは自分の胸にそっと手を当てた……。
「よし、さっそく支度して出発しよう!」
シルヴィは早速準備に取り掛かった。
ホテルをチェックアウトしたシルヴィは同じくチェックアウトしたクロードと共に、前日に決めていたリューヤとの待ち合わせ場所であるカフェへと向かった。
カフェに着くと既にリューヤが席に座って待っていた。
「ごめんなさい、待った?」
シルヴィとクロードが謝りながら向かいの椅子に座ると、リューヤは特に気にしたふうもなく少しだけ首を振る。
そして、一度シルヴィを見ると、すぐにクロードに視線を向けた。
クロードに話を聞かれてもいいのか、とシルヴィに目線で問いかけているのだ。
シルヴィは小さくうなずく。
クロードにもすべてを話すと決めた、もう後戻りはできない。
シルヴィはまずクロードに事情を説明することにした、クロードの目を正面からしっかりと見据えて口を開く。
「クロード、あたしあんたに隠してたことがあるの……」
シルヴィの言葉を聞いたクロードは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、真剣な顔つきでシルヴィを見つめ返した。
シルヴィは続ける。
「あたしの本名はシルヴィ・レストナック、レストナックインダストリーの会長フレデリック・レストナックの娘なの」
それを聞いたクロードの顔色がさっと変わる。
「なん……だと……!」
クロードが驚愕の声を上げる、当然だろう、レストナックインダストリーといえば世界的大企業である、短い間とは言え一緒に旅してきた相手がその会長の娘だったなどとは想像もしていなかったのだから、驚くのも無理はない。
シルヴィの告白を聞き終えたクロードがシルヴィに質問する。
「その話、本当なのか?」
シルヴィは深く頷く。
その様子にクロードはシルヴィが冗談を言っているわけではないと判断した。
「そうか……まさかお前があのレストナック会長の……いや、でも、そうすると、どうしてシルヴィはここに?」
クロードは疑問を口にする。
シルヴィは説明した、自分が父親から愛されていないと感じていたことを、それで溜まっていた不満が爆発したことを。
クロードは驚いていたが黙ってシルヴィの話を聞いていた。
「そういうわけであたしは家出をしたの、ハンターになった理由はまた別のところにあるんだけど、これは今は関係ないから割愛するね」
シルヴィが話し終えると、しばし黙っていたクロードが口を開いた。
「そうか……いや、シルヴィありがとな、オレに話してくれて」
「うん、こっちこそありがとう、今まで隠していてごめんね」
シルヴィが頭を下げると、クロードは笑顔で言う。
「いや、いいさ、こんなことそう簡単に話せないのは当然だ」
クロードの言葉にシルヴィは救われた気がした、素性を隠していたことを咎められても仕方がないと思っていたからだ。
シルヴィは心の底から安堵し、クロードに感謝した。
その時、黙って話を聞いていたリューヤが口を開いた。
「それで、俺はシルヴィの父親であるフレデリック氏から娘の保護を依頼されたわけだ」
リューヤの言葉にクロードは、
「なるほど、だからリューヤさんはあのとき現れることが出来た訳か……」と納得した様子で頷いた。
リューヤはシルヴィに向き直ると聞いた。
「それで、お前はどうすることに決めたんだ?」
「あたしはパパに会いに行くことにしたわ、会って色んなことを聞きたいの、それに……パパに謝らなくちゃいけないから……だから、あたしはパパに会うことを決めたのよ」
シルヴィの返答にリューヤは口元に笑みを浮かべる。
「そうか、それがいい。フレデリックさんも喜ぶだろう」
シルヴィは力強く頷く。
「それならば、俺はお前とともに行こう、依頼はもう終わったが、これも何かの縁だろう、それに、このままでは気になって夜も眠れないからな」
「あ、ありがとう!」
リューヤの提案にシルヴィは嬉しそうに答える。
その様子にクロードが「むぅ……」と小さく唸った。
シルヴィに気があるクロードにとっては面白くない提案なのだろう、だがそれを口に出すことはできないので仕方なく黙っている。
そんなクロードの様子を知ってか知らずか、リューヤはクロードに視線を向ける。
「お前はどうする? シルヴィの素性を知ってこのまま一緒に行動するのは難しいと思うが……」
リューヤの言葉にクロードは少し考えてから答えた。
「確かにそうかもしれないな……だけど……それでも……! オレは……! オレも行くぜ!」
言いながら心の中で(リューヤさんとシルヴィの二人旅なんて羨ましいことさせるかよ!)と叫んでいたりするのだが……
クロードの言葉を聞いたリューヤはニヤリと笑うと、「そう言うと思ったよ」と返した。
「ありがとうクロード。これからもよろしくね」
シルヴィは笑顔でクロードに礼を言った。
「お、おう、任せとけ」
クロードは照れたように頭を搔きながら答える。
そんな様子をコーヒーをすすりながら微笑ましげに見ていたリューヤだったが、やがてシルヴィに視線を向けると言った。
「じゃあ、シルヴィ、早速だが出発するか」
リューヤの言葉にシルヴィは少し考えてから言った。
「あの……それなんだけど……確かにあたしはパパに会いたい、けど、やっぱりすぐに会うのはちょっと怖いの、だから心の準備をする時間が欲しい、飛行機ですぐ行くんじゃなくて歩いて行きたいの、ダメかな?」
ここヘムシティからシルヴィの父親のいるアルミシティまで飛行機で行けば数時間でつくが、歩きで行けば数日かかる。
フレデリックに会うと決めたシルヴィだったが、やはり不安なのだろう、だから歩くことで少しでもその恐怖を和らげようとしているのだ。
「そうだな、急ぐ旅じゃない、ゆっくり行くか」
リューヤの言葉にシルヴィは笑顔で頷いた。
(しかし徒歩での旅か……少々危険ではあるが、まあシルヴィもクロードも強いから心配はいらんか……俺もついて行くんだしな)
リューヤはそんなことを考えながらコーヒーを飲んだ。
こうして次の目的をアルミシティと定め、3人は町を出発するのである……おっと、もう一人(?)……。
街の出入り口付近、人の目が少ないところまで3人が来たところで、リューヤの懐からピリアが顔を出す。
カフェでは人目があったせいで顔を出せず話に加われなかったのだ。
「今後しばらくは4人旅かぁ、よろしくね、シルヴィ、クロード!」
ピリアはシルヴィとクロードに挨拶をする。
シルヴィとクロードもそれぞれ返事を返す。
「えぇ、こちらこそ、改めてよろしくね」
「ああ、よろしくな、ピリア」
「2人が危なくなったボクが守ってあげるから心配しないでね」
シルヴィとクロードは微笑んで、ピリアは胸を張って言う。
「あはは、頼りにしてます」
シルヴィは苦笑いを浮かべて答える。
「……ああ」
クロードも少し引きつった顔で答えた。
小さなピリアに守ると言われるのは多少プライドが傷つくが、バイオモンスター戦でピリアとの実力差を見せつけられたばかりなので何も言えない。
シルヴィはクロードの様子を見かねてフォローを入れる。
「大丈夫よ、クロード。あなただってすぐに強くなるわ」
シルヴィの言葉にクロードは心の中で思う。
(シルヴィにフォローされてるようじゃオレも駄目だな、だけど見てろよ、シルヴィの言う通りオレは必ず強くなる、そして……)
と、ピリアとピリアが肩に乗るリューヤを交互に見る。
(オレはいつかこいつらより強くなってみせる!)
心のなかで誓うクロード、そんなクロードの様子を微笑ましく見つめるリューヤなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます