再会

 私――登坂亜佑美とうさかあゆみは一週間前に私の親友である城崎朱莉きのさきあかりから、失恋したからビアガーデンで朝まで飲み明かすぞ! との連絡を受けた。


 そして今日、私たちはビアガーデンに来ている。週末だからか多くの人がお酒を片手に楽しんでいる姿が見受けられた。私はキンキンに冷えたビール片手に朱莉の話に耳を傾ける。


「それでさ、相手が性格が合わないから別れようって言ってきたんだよ!?」


 朱莉が若干キレながらそう言ってくる。


「まぁ、朱莉は見た目に反してサバサバした性格だしね。まさかこんなに大雑把で口の悪い女子なんて思わなかったんでしょ」


 私が正論でそう返すと、泣き下戸な朱莉は目を潤ませながら口を開いた。


「うっ……辛辣ぅ〜!」

「こればっかりは事実だから仕方ないわよ」


 ここで朱莉が本日三杯目のビールを一気飲みする。


――酒に弱いくせに何してんのよ。介抱するのはこっちなんだから程々にしときなさい。


 そう言おうとしたが、今の朱莉に言ってもなんの効果もないだろう。私はビールジョッキに入っているお酒を一口含みながらそう考える。

 私は朱莉と違って恋愛経験が一度もない。初恋ということすらどういうものなのか分からないままかれこれ二十五年が経っていた。


――そろそろ私も結婚したほうがいいのかな。


 中高大とも女子校だった私にとって、恋愛なんて縁のないことというのは分かってはいるが、もう私も二十五歳だ。私の周りには結婚して家庭を持ち始めている人が結構いる。どうしようと頭を悩ませていたら、寝息が聞こえてきた。


「すぅすぅ」


 前を見ると、朱莉が涙を浮かべながら眠っている。ここに到着してから二時間。二杯目に入った途端、泣き始めたので、朱莉の目元が赤く腫れていた。

 この状況で彼女を起こすのは申し訳ない。かといって、朱莉を家までおんぶする気力も持ち合わせていなかった。どうしたものかと考える。すると、背後から声がかかった。


「なんでしょうか?」


 振り向きながら応える私。どうやら長身のスラっとした男性のようで、見る目のない私でもかっこいいと思ってしまうほどイケメンだった。


「あ、やっぱりそうだ!久しぶり登坂」

「えっと……どちら様で?」


 突然、名前を呼ばれて思わず困惑してしまう。私にこんな顔の良い知り合いはいただろうか。いや、絶対いない。取り敢えず名前を聞いてみることにする。


平山涼ひらやまりょうだよ。小学校のときに同じクラスだった」


 平山涼と名乗る男性は応えた。そんな人いただろうか。そう思いながら考えていると、クラスの中に太っている男の子がいたことを思い出す。


「え!? あの平山くん!?」

「実は俺、中学入ってから痩せたんだよね」


 まさかあの子がこんなにも痩せているとは思いもしなかったので、私は驚きの声をあげてしまった。人間頑張ればこんなにも変わるものなんだなと感心していると、朱莉の寝言が聞こえてくる。


「あ、そろそろ家に送らないと」

「友達か?」

「うん。この子下戸なのに無理して三杯も飲むから……。でも、私じゃ運べないのよね」

「なら、タクシー乗り場までおぶろうか?」


 そう私が困っていると、有難いことに平山くんが助け舟を出してくれた。


「いいの?」

「うん。ここには一人できたから連れもいないし大丈夫だよ」

「それじゃあお願いね」


 そう言ってくれるなら、任せよう。私たちは思い出話に花を咲かせながら、タクシー乗り場へと向かった。


歩くこと五分。乗り場に着いた私はタクシーを呼び、朱莉を後部座席へと座らせる。


「本当にありがとうね」

「どういたしまして。……あ、そうだ!この際だから連絡先交換しないか?」


 お礼を言ってこれで終わりかと思いきや、まさかの申し出に驚く。少し考えてから私は連絡先の書いた紙を渡した。


「ありがとうな。それじゃあ俺はこれで」


 そう言うと、平山くんは去っていった。それを見届けた私は朱莉を家に送るためにタクシーへと乗車する。

 突然の再会に心が躍った私は、さっそくスマホの方に平山くんの連絡先を入れるのだった。

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