甘いものとニキビ

 午後二時三十五分。メールに一件の着信があった。

通知によると、それは親友である奏恵からのものだった。こうして連絡がくるのは一ヶ月ぶりなので、咲希は何だろうと思いトークページを開ける。

 

『来週の日曜日、スイーツの食べ放題に行こうよ!予定空いてたらで良いから』

 

 そう記載されていた。咲希はあまりにも急な誘いだったので一瞬思考が停止してしまう。

 しかし、すぐさまスケジュール帳を手さげのバックから探す。

 

──何かあったらすぐに取り出せるようにバックの外ポケットに収納していて正解だった。

 

 咲希はそう思いながら、取り出したスケジュール帳のページをペラペラ捲り、該当する箇所に目線をやる。ちょうどその日は何の予定もなく真っ白だった。緑川咲希は有名な読者モデルとして活動している。そのせいか、スケジュール帳には食べ放題に誘われた日以外は予定がびっしりと詰まっているのだ。

 約一年振りに親友と遊びに行けることに浮かれていた咲希はトークページを開け、『その日空いてるから行けるよ〜』と文章を打ち込む。

しかし、送信ボタンを押そうとした瞬間、思わずその手を止めて打ち込んだ内容を取り消した。

 

──そういえば私、甘いもの食べたらニキビできちゃうじゃん!

 

 我に返った咲希はそのことを思い出し、どうしようと頭を抱える。

 夜更かしはお肌の天敵と言うように咲希にとって甘いものはすなわちそれだった。

 板チョコを一欠片食べるだけならまだしも、食べ放題となると話は別だ。それに読者モデルという職業上、街中を軽く歩いただけで目立ってしまうため、親友を巻き込んでしまいかねない。

 そこまで考えていた時、スマホの電話が鳴る。表示された画面にはマネージャーとあった。多分、明日の仕事の打ち合わせだろう。咲希は、一旦考えるのは止めにして仕事の方に集中しようと電話に出るのだった。


 それから三日後、迷いに迷った挙句一人で悩んでいても仕方ないと思った咲希は、奏恵に電話をかける。五コール目でやっとでた奏恵から『もしもし?急にどうしたの?』と電話越しに返事がきた。

 咲希は少しの沈黙の後、思い切って食べ放題に行くかどうか迷っていると理由とともに伝える。

言い終わったら少しだけ緊張の糸が途切れたのか、息を吐く。


『んーとね、一つ言わせてもらうと……そんなこと気にしてちゃこの先誰とも遊びになんて行けないし、自分の好きなものも満足に食べられなくなっちゃうよ。まぁニキビが気になるってのは分かるけどさ』


奏恵からの返答はもっともなものであり、咲希の胸には深く突き刺さった。確かに奏恵の言うとおりだ。でもどうすればこの悩みを解決できるのか今の咲希には分からない。そう思い、どうすれば良いのかと口にする。


『それなら良い案があるからちょっと待ってて』


 奏恵が音声をミュートにしてから数分後、メッセージの方に着信が入る。見てみると、そこにはとあるお店の画像とともにURLが添付されていた。タップしてみるとスイーツ食べ放題の文字とともに美味しそうなケーキやクッキーの写真が表示される。


「これは?」

『このお店のスイーツは全部糖質OFFだから咲希にも合うんじゃないかと思ってね。立地もそう人通りの多いところじゃないし目立ちにくいから、咲希がモデルだってこともバレにくいんだよ』

「なるほど、ここなら私でも入れるかも。わざわざ探してくれてありがとう」

 

 このお店なら大丈夫そうだと、奏恵の説明を聞いた咲希はお礼を述べる。


『良いってことよ。何の考えもなしにあんたを食べ放題に誘うわけないでしょ。私だってそれなりに考えてるの』

 

 あらかじめこうなることを予想していた奏恵に思わず笑みが溢れる咲希。

 行くお店が無事に決まったので、この際だからと集合時間と集合場所も決めることとなり、十四時に渋谷駅に集合することに決まったのだった。


 そして当日を迎えた咲希は奏恵とともに食べ放題を楽しみ、渋谷周辺を散策することになった。

 その日の晩、お風呂上がりに鏡を見てみるとニキビはできていなかった。

 咲希は、今度から甘いものを食べたくなったらあのお店に行こう。そう思い眠りにつくのだった。


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