プール授業の始まりはいつも慌ただしい
「嫌だ!今すぐ帰る!!」
クラスのみんなが次々と着替えるために更衣室に入る中、一人の少女が駄々をこねていた。
今日からプール授業が始まる。泳げる人やプールが好きな人にとっては最高の授業だろうが、泳げない人にとっては苦痛でしかないこの授業。
先程から、更衣室の入口で駄々をこねている少女──品川凛も泳ぐのが苦手だ。
彼女は元から身体を動かすことを苦手としていて、体育全般が嫌いだった。中でも、持久走とプールは仮病を使ってでも休みたいほど嫌いだ。
高校一年生の凛は、中学時代に泳げないことで周りから馬鹿にされた経験があった。それ以来、プールに入ることがトラウマとなっていた。
更衣室に入るのを拒んでいるのはそれらが原因だった。
凛の幼なじみである瀬奈と由美はそんな凛に対して困った表情を浮かべていた。
二人には、毎年なかなかプールに入ろうとしない凛を入らせるという役目があった。
今年もまた始まったと頭を抱えながらも、
「早くしないと着替える時間なくなるよー!」
と二人は凛の腕を引っ張っていく。
授業開始のチャイムがなるギリギリにプールサイドへと滑り込んだ三人は、先生に叱られながらも列に並んで座る。
冷たい風が吹く中、先生がプールに入る際の注意事項を話していく。しかし、凛の頭には全く入ってこなかった。
気づくと、話が終わっていたのかみんな次々と入水していく。天候が荒れつつある中、凛もそれに合わせて入ろうと恐る恐る水面に足をつける。
プールの水もシャワー同様、冷たいのかと身構えるがそうでもなく、どちらかというと水温はぬるま湯に近かった。この温度なら入れそうだと思った凛はそのままプールに浸かる。
すると、手始めにバタ足で二十五メートルプールを往復しろと先生に言われる。
それを聞いた凛は、どうしようかと困り果てるのも束の間。隣にいた瀬奈から声がかかった。
「泳げる人は四から六レーン。泳げない人は一から三レーンに分かれるらしいから移動しなよ」
そう言われた凛は、小中学生の頃は全員一緒に泳いでいたのに、高校ではそんな分け方をするのかと内心驚く。
その間にも全員移動し終わっていたらしく、先生から早くしろと声をかけられ、凛は慌てて一レーンへと向かった。
その後、泳げる人は泳げる人、泳げない人は泳げない人のペースに合わせて授業が進んでいった。そのため、中学の頃のトラウマが発動することはなく、無事にプール授業を終えることができた。
凛が着替えを終えて更衣室からでると、瀬奈と由美が待っていた。
由美に「プールどうだった?」と聞かれた凛は、「今までのプールと違ってちょっと楽しかった」と応えた。
それを聞いた二人は良かったと安堵の声をもらしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます