左利きの苦しみ

稲宮 亜澄は生まれつき左利きだった。

左利きは世界人口の一割しかいないと言われているからか、亜澄は昔から珍しいやら天才だ、羨ましいなどと言われ続けていた。そんなことは決してなく、苦労ばかりしていたというのに。幼い頃から左利きということに囚われ続けていた亜澄。周りが右利きの人しかいなかったために、お箸の持ち方や鉛筆の持ち方を教えてもらってもうまくできずに怒られることが多かった。なんなら、小学生の時はそのことが原因でよくいじめを受けていたりもした。大人に相談するも、そんなことでいじめに発展するのかという人もいたし、結局冗談半分にしか受け取られず、理解してくれる人は誰一人としていなかった。

 世の中はどうしてこんなにも理不尽なんだろう、どうして自分の母は自分を左利きなんかに産んだんだろうと小さいながらに思っていた。この世界は大抵のものが右利きの人用に作られている。ハサミやカッター、左利きの多くの人がうんざりしているであろう改札もそうだ。そのせいで不便だと思うことが多々あった。加えて、体育の授業の時も左利きなせいで周りに迷惑をかけてしまうことが多かった。亜澄は、何度も左利きである自分を呪った。また、中学生の頃に右利きに矯正しないのかと周りに聞かれたが、今更直そうとしても無駄だと思った。だって、左利きの生活に慣れてしまっていたから。一度だけ右利きに矯正してみるかと試したこともあったが上手くはいかなかった。

 もう左利きの人生は嫌だと思っていたそんなある日。とあるサイトで「左利きの人全員集合!左利き特有の悩みとかあるある書いていけ!」といった掲示板を見つける。そのサイトには多くの左利きの人達が集まっており、それぞれあるあるや悩みなどが続々と書かれていった。それを眺めていた亜澄は、自分も一つだけ書いてみようかなと思い、「改札通るとき、いつも左利きのがあったらいいのにと思う」と書き込む。すると、それに「わかる!」「自分もそうだよ!」などと反応をもらえた。その瞬間、自分みたいな左利きなことに悩んでいる人がいて、共感し合えるのだと知ることができ、いくらか心が軽くなった。

 最近は左利きの人のための商品も増えてきたり、左利きの人に関心を持つ人や悩みを理解する人が多くなり、子供の頃に比べたら過ごしやすい時代になった。それは亜澄など左利きの人達にとってはとても喜ばしいことで、左利きの人だけが集まって仕事をする会社も出来たほどだった。ちなみに、亜澄はその会社に所属しており、左利きの人が過ごしやすくなるような世の中にしたいと日々奮闘している最中である。

 左利きに生まれたことで小さい頃や学生時代は波乱万丈な人生を送ることになってしまった。

しかし、亜澄は、今では自分が左利きで良かったと思えるまでに世の中が変化していったのだ。

是非、このような風潮は他のマイナーな界隈でも増えていって欲しいものである、と亜澄は語る。

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