アイスクリーム

 高校三年生の夏、幼馴染である千春・佳奈・梨花は珍しく部活帰りに寄り道をしていた。普段は疲れ過ぎて真っ直ぐ家に帰るのだが、今日は大会終わりなこともあってご褒美にアイスを買おうとしていたのだ。べらべらと他愛もない話をしながら歩いていると、ここらでは有名なアイスクリーム店の前に着く。

「あっ!新しいのがでてる」

メニューの書かれた看板を指さしながら声をあげる千春。どうやら期間限定のアイスクリームが発売されているようで、前を並んでいるお客さんもそれを頼んでいた。味はソーダとマンゴーが売られているらしい。

「なら、私はそれ頼もうかな。味はソーダ。カップでお願いします」

「んじゃ私もカップのソーダで!」

佳奈と千春はそう店員に期間限定メニューを頼む中、梨花は

「みんながそうするなら私はあえて逆をいこう」

と言い、カップのチョコ味を選ぶ。

「いや、そこは普通便乗するところでしょ」

「だって今はチョコの気分なんだもん」

即座にツッコミを入れる佳奈に対して、そう返した梨花。我が道をいく梨花は、小さい頃から周りに流されることはあまり好きではないらしく、なにかあっても理由をつけては断ることが多かった。

「なるほどね。それじゃあ後で一口もらってもいい?」

「良いよ」

「ちょっと佳奈だけずるい!」

「はいはい。千春にもあげるからそっちも一口分けてね?」

「うん!」

などと話していると、人数分のアイスが出来上がっており三人はそれぞれを受け取った。梨花は、この場で食べるにしても、人通りが多いため迷惑になるだろうと思い、公園のベンチで食べないかと二人に提案する。佳奈と千春はそれに同意すると、溶けないうちに近くの公園へと足を進めた。

 

 歩くこと数分。誰もいない公園に着いた三人は古びたベンチへと腰を下ろす。

「誰もいないね……」

「本当だ。久々に来たけどマジで誰もいない」

「昔は小さい子供たちで賑わってたのに」

殺風景な公園を眺めながらアイスを食べ進めていると、佳奈が緑のフェンスに貼り紙が貼られているのを発見する。少し前に貼られたのか、紙はそんなに汚れていないようだ。気になって近づいてみると、そこには公園が今月末をもって取り壊されるという内容が書かれていた。

「マジか」

「取り壊すなんて聞いてないんだけど……」

「まあ、ここの近所に住んでる子供たちの数だいぶ減ってきてるから、取り壊されるのも時間の問題か」

口々にそう述べていると、なにを思ったのか千春が

「だったらさ、最後に思いっきり遊んでいかない?」

と言い出した。突然のことに少し驚きつつ、最後なんだしそれもいっかと思い、良いよと返事をする佳奈。たまには流されても良いかなと思い梨花もそれに同意する。

 それから時間が経つのは早かった。まず、ブランコで二人乗り。次に大きなすべり台で蟻地獄をやった。その他にも、木登りやジャングルジムなど、公園に置かれている遊具を全て制覇しようと三人は幼い頃に戻ったかのようにはしゃぎまくる。楽しい時間はあっという間というのは本当のようで、気づけば辺りは暗くなっており、少し残っているアイスも溶けきっていた。千春は友達と一緒に過ごせるこの瞬間をもっと大事にしたいなと思った。暗くなる景色をぼんやりと眺めていると、先にベンチに戻って溶けたアイスを飲み干していた二人から

 「おーい、千春!帰るよー!」

 と声がかかる。それに気づいた千春は待たせてはいけないと、少し焦りながらベンチに荷物を取り行く。

「ごめんごめん。ぼーっとしてた」

 そう言う千春に、荷物忘れないでよと鞄を渡す梨花。千春は、ありがとうと返すとアイスの入っていたカップを公園に配備されている水道で洗ってゴミ箱に捨てる。そうして、三人は公園で解散し、それぞれの家へ続く道を歩いていくのだった。

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