ある稲荷祭りでの出来事
八月某日。とある地域で稲荷祭りが開かれた。高校生である瑛子は、夏休みの思い出にと友達の千恵と夏海の三人で来ていた。このお祭りは毎年、多くの人で賑わっており、祭りの最後は花火が打ち上げられるという。
時刻は夕方。普段なら日が暮れ始める頃だが、夏ということもあってまだ明るかった。屋台も多く出ていることから、三人は金魚すくいをしたり、りんご飴などを買うなどして屋台を楽しんでいると、瑛子が急に
「お手洗いに行きたいから、ちょっと近くで待っててくれない?」
と言った。
「仕方ないな。早く帰ってきてよ~」
と返す千恵。
千恵と夏海は近くのベンチで休憩がてら、買ってきたかき氷を食べながら話していた。
その様子を見守りながら、お手洗いへと向かう瑛子。数分後、すっきりした顔でお手洗いから出てきた瑛子は、友達の待っているベンチへと向かった。しかし、そこには誰もいない。食べ終わったかき氷を捨てに行ったのかなと思った瑛子は、そのまま二人を探すことに。しかし、人混みの中、二人を探すのに苦労していた瑛子は屋台の店主なら何か知ってるかと思い、屋台に寄った。
瑛子が、屋台の店主に
「すいませーん。ここら辺で浴衣を着た私と同じぐらいの女性二人組を見かけませんでしたか?」
と声をかけるも反応がない。人が多すぎて聞こえなかったのかなと思い、もう一度声をかけるも、反応がなかった。仕方がないと、他の屋台でも声をかけるが、誰一人として反応がない。
どこか不思議に思いながらも、祭り会場を探し歩くこと一時間。気づけば境内のはずれに来てしまっていた。辺りには誰もおらず、青々と生い茂る木々ばかりが見えていた。友達を探すことに夢中になっており、来た道も分からなくなった瑛子は、迷子になったのだと悟った。しかし、辺りを散策していたら、一軒の古びたお店を見つけた。長いこと人が出入りしていないようにも思える、その店の中を覗くとほんのりと灯りがついていた。いかにも怪しげなその店に、一か八か入ることを決めた瑛子は店の扉をコンコンとノックする。
すると、
「どうぞ」
と地を這うように低い声が中から聞こえてきた。恐る恐る入ってみると、そこには珍しい食器や骨董品、昔に作られたであろう和楽器が置いてあった。どうやら、このお店は雑貨屋らしい。瑛子は、祭りにはそぐわない代物ばかりだなと思いつつ、店主に声をかけるためにレジへと向かった。レジの周囲にはキラキラしたアクセやブレスレット、石などが飾られていた。思わず、それに興味を示した瑛子は水晶のようなブレスレットを手にとり、店主へと渡し、お釣りがでないようにお金を払った。そのついでに
「すいません」
と声をかける。すると、店主が
「なんだい?」
と返事をした。ずっと話しかけても反応がもらえなかった瑛子はやっと反応してもらえたと安堵しつつ、
「ここら辺で私と同い年ぐらいの二人の女子を見かけませんでしたか」
と声をかけた。それを聞いた店主は
「そんな子らは見かけてないよ。もしかして、あんた迷子かい?」
と何かを察したのかそう言い返しながら、瑛子が買った商品を渡す。それを聞いた瑛子は
「はい。友達二人を探していたら、いつの間にか迷子になってしまいまして......」
と情けなさそうに話す。すると、店主が
「それなら、戻る道を教えてあげるよ。何、商品を買ってくれたお礼さ」
と言った。それを聞いた瑛子は深々と頭を下げてお礼を言い、店を出る。
店主に言われた通りの道を進むこと十五分。瑛子は元の祭り会場へと戻ってきた。安心したのかほっと息をついていると、向こうから瑛子を呼ぶ、夏海の声が聞こえてきた。合流した千恵と夏海から
「あんたどこに行ってたの?」
「ずっと探してたんだよ」
と言われ、瑛子は戸惑う。こっちが探してたんじゃないかと話そうとするも、
「話は後で聞くよ。もうすぐ打ち上げ花火が始まるから、早く行こ」
と言われ、三人は花火会場へと急ぐのだった。
後日、瑛子は稲荷祭りの出来事を、お祭りが開かれていた神社の宮司に話した。宮司は、
「この神社は神仏分離令が出される前は仏様を祀っていたらしく、その店の店主は仏様だったのかもしれない」
と言っていた。その夏祭り以来、瑛子はあの時に買ったブレスレットを今でも大事に持っている。
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