隣の客の怖い話

隣の客

これは私がとある男から聞いた怖い話です。

ある日の夏の夜、私は会社の同僚の男の子Ａ、女の子のＢの３人で居酒屋に行き、飲み会を行っていました。

他愛もない話から昨日見たホラー番組の話になり、同僚の男の子Ａが

Ａ「怖い話ならオレもあるよ！」

と怖い話を始めました。

大学の頃オカルト研究会なるものに所属しており心霊系の話が大好きな私は、

ウキウキでその話を聞いていました。

ただ、Ａの怖い話はあまり覚えていません。

確か友達と心霊スポットに行って、後日撮った写真を確認したら…

みたいな話だったと思います。

話はありきたりですが、身近に怖い経験をした人がいるだけでテンションが上がっていた私は「いいじゃん！いいじゃん！」とか言いながら騒いでいました。

すると、隣の席の男が話しかけてきました。

男「おぉっ姉ちゃん」

ヤバい、ちょっとうるさくし過ぎたか？と思っていると、

男「怖い話なら俺もあるよ」

私「え…」

その作業着を来た50歳手前くらいの男は、顔が赤くかなり飲んでいる様子でした。

酔っぱらっているからか目の焦点が合っておらず少し怖い雰囲気があります。

しかしここでつっぱねることも出来ず、また怖い話好きでもある私には好奇心もあり、話を聞いたらおとなしくなるだろうと思い、「どんな話ですか？」と返しました。男は少し嬉しそうに話し始めます。

男「いや最近さ、最近って言っても４年くらい前からさ、

　　俺の周りで変なことが起こるんだよ。

　　家の電気が点いたり、消えたり、俺の家２階なのに窓をたたく音がするとか。

　　あとよく肩を叩かれる。誰もいないのに」

騒がしい居酒屋で私たちは黙って男の話に耳を傾けます。

男「そんで夢を見るんだよ。森の中で俺が殺される夢。

　　森に俺が倒れてて、男が俺を斧でバラバラにすんの。

　　それを女が少し離れたとこで見てて、最後その二人が俺のこと埋める。」

Ａ「うえぇー」

男「んで別にそんな気にしてなかったけど、社長にお祓い行けって言われて、

　　こないだ寺に行ってきたんよ。そんで寺に入ろうとしたら坊主が

　　ものすごい顔で走ってきて、『敷居を跨ぐなー！！』って叫んで。

　　『俺についてる悪霊ってそんなヤバいの？』ってきいたら、無視。

　　『絶対寺に入るなよ、ちょっとそこで待っとれ』って言って

　　寺の方に戻っていって、しばらくしたら帰ってきて、お札を２枚渡されたんよ。

　　このお札を家に貼れって言って。

　　その時坊主が『本当は現場に行って花でも手向けて…』とかぶつぶつ言うから

　　『誰がするかよ、めんどくせえ』って返したらまた無視。

　　睨んできやがって、ぶん殴ったろか思ったけど

　　さすがに寺で坊主殴ったらヤべぇかと思ってお札だけもらって帰ってさ」

笑いながら話す男。

男「んで、お札を家に貼ったらその日からハヤトらの夢見んくなって、

　　すげえな。坊主殴らんでよかったわ。」

私「え、その夢に出てた人って知ってる人だったんですか？」

男「あー、俺の死んだ元カノと連れなんだよ。」

男の口の端が笑っていました。

私たち３人が反応できずにいると男は話を続けました。

男「でもお札昨日見たら１枚黒くなって剥がれかけとったから、

　　またもらいにいかなかんのよな。」

Ａ「…こわ～」

Ａの小学生並みの感想で場が和みましたが、

私たちはなんとなくその居酒屋に居づらくなり、そそくさと店を後にしました。

店を出てしばらくすると、

男の怖い話以降口数の減っていたＢが口を開きました。

Ｂ「元カノと友達の人、なんで死んじゃったんだろう…。

　　なんか、あの男の人…顔ヤバくなかった？」

同意でした。

最後「怖い話」を話し終えた男の顔は歪んで見えました。

あの男は何をして幽霊となった二人から恨まれたのでしょうか。

どうしても嫌な想像をしてしまいます。