第40話
清水さんに手伝って貰えると助かる所はある。だけど「……それって自分のせいで、とか思って言ってくれてる? だとしたら大丈夫だよ。課長だって、俺の負担が増えない様に調節してくれているから、それに合わせて終わらせられない俺がいけないんだからさ」
「そうは言っても、このまま帰っても落ち着かないですし、ちょっとでも良いので手伝わせてください」
「……真面目だね、分かったよ。じゃあ、こっちに来てやってもらいたい事を説明するから」
「はい!」
清水さんには部品の写真を撮ってもらい、俺は資料を直していく──途中で問題点が見つかった事もあり、思いのほか時間が掛かってしまった。
「最後にこの写真を撮ってきてくれるかな?」
「はい」
俺は清水さんにそれだけ頼むと、作業着のズボンから携帯を取り出す。ヤバ……結香に連絡しないと。そう思っていると、先に結香から電話が来る。
「──はい」
「あ、亮ちゃん。いま何処に居るの?」
「会社」
「会社!? なんで?」
「明日必要な資料を作るため、残業をしていたんだ」
「……一人で?」
「いや……新人の女の子と」
「──それって……本当に残業なの!?」
「残業だよ!」
「……まぁ、良いわ。早く帰って来て」
「あぁ……分かった」
俺が電話を切って顔を上げると、浮かない表情で清水さんは俺を見つめていた。
「あ、ごめん。写真、撮れた?」
「はい」
「じゃあ貸して。これでおしまいだから、本当に帰って大丈夫だよ」
「分かりました」
清水さんは返事をして、カメラを俺の机に置く。
「葉月主任」
「ん?」
「主任って……もしかして奥さんと上手くいっていないんですか?」
「え……? どうしてそんなことを?」
「ごめんなさい。話し声が聞こえて、気になってしまいまして……」
「あぁ……」
確かに最近の俺達は上手くいっていない。運命の赤い糸は薄っすら見えていても、繋がる事はほとんど無くなってしまった。だからと言って、ここで清水さんにそれを言うのは違う気がする。だから──。
「いや、そんな事は無いよ」
「それじゃ何で疑われているのでしょうか……?」
「さぁ? 俺にもサッパリ分からないよ」
「日頃から葉月主任の事をちゃんと見ていれば、そんな事しないって分かるはずなのに……」
「! ……あはは、ありがとう」
「では、これで本当にお先に失礼しますね」
「うん、ありがとう。お疲れ様」
「はい、お疲れ様です」
清水さんは返事をして、出入り口の方に向かって歩いていく……俺は清水さんが部屋の外に出るまで見送った。
バタンとドアが閉まり、少し経ったところで俺は「ふぅー……」と溜め息をつく。
俺は清水さんの一言に信頼されている事を感じて、運命の赤い糸をピクッと震わせてしまったことを、結香に見られなくて良かったと安堵していた。
※※※
その日の夜──結香と子供たちが寝た後に風呂に入った俺は、いま風呂場から出て居間に向かっていた。すると居間のテーブルに置いてある携帯が鳴り響き始める。
「ちょ、ヤベっ」
日頃、こんな時間に掛かってくる所か、滅多に電話が掛かって来ないので、油断してマナーモードにし忘れていた。俺は慌てて駆け寄り、電話の主を確認してから電話に出る。
「はい、どうした?」
「お~、亮。元気か?」
「……圭介。もしかして酔っ払っているのか?」
「おう! フラフラになるまで飲んじまった」
「ったく……呑気で良いな。それで、何の用事?」
「用事って程じゃねぇんだけどよぉ。今から少し飲まないかぁ?」
「いや、明日は普通に仕事だし無理だろ」
「じゃあ、土曜日の夜は? それだったら休みだろぉ?」
確かに休みだけど……寝静まった頃に出たとしても、結香に後で嫌味を言われそうだな。圭介と飲むのが嫌な訳じゃないけど、ここは断っておくか。
「ごめん、それも無理。多分、あとで結香に何か言われちまうよ」
「……分かった。じゃあこうしよう、俺の美波を一晩貸してやる。だからお前は俺に付き合え」
「貸してやるって……藤井さんじゃなかった美波さんは大丈夫なのか?」
「あぁ。大丈夫、大丈夫。ちゃんと説得するってぇ」
本当に大丈夫なのか? まぁ良いや、それなら許してくれそうだし、結香に話してみるか。
「分かった。じゃあ結香に話してOK貰えたら、また連絡する」
「おう、楽しみにしてるぜぇ」
飲み会か……子供が産まれてから全然行ってないからワクワクする。気持ちよく良いよって言って貰えると良いなぁ
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