第31話
「はい、どうぞ!」と、体育館に戻ってきて結香は、俺のホッペに冷たいジュースというかエナジードリンクを押し付けてくる。俺は「ありがとう」と御礼を言いながら受け取った。
何故にエナジードリンク? と疑問には思ったが、結香の事だ。深い意味は無く、褒めてくれたお礼に一番高いエナジードリンクを選んでくれたのだろう。
俺は結香が隣に座ったタイミングで「この後はどうする?」と話しかける。
「ん~……ステージパフォーマンスが終わるまで、ここに居れば良いんじゃない? その頃には片付けする時間になるでしょ」
「そうだな」
──こうして俺達はステージパフォーマンスを最後まで観て楽しんだ。その間、結香をアイドルと言った事が効いたのか、結香は手を繋ぐ代わりに運命の赤い糸を繋いでくれた。
その日の夕方、俺達は片付けが終わると、グラウンドに移動する。外は暗くなってきてはいるけど、まだ明るさが残っている。だけど花火を上げる時間帯には丁度いい暗さになっているだろう。
「ねぇ、亮ちゃん。去年はあそこで見たから今年はあっちで観ない?」と結香は指差して提案してくる。
「あぁ、去年は近すぎて見え辛かったからな」
「そうそう。あと皆、同じようなことを考えていてゴチャゴチャしてたじゃない?」
「確かに。なんか落ち着かなかったもんな」
「そうそう。じゃあ移動しちゃおっか?」
「うん」
俺達はグラウンドの端っこへと移動する。始まるまでに30分程の時間があったが、俺達は世間話をしながら過ごした──。
「お、そろそろ始まるみたいだぞ。立ってみるか?」
「良いよ。このまま座って観よう」
「分かった」
司会の男の子の合図と同時に……大きくて綺麗な金色の花火が夜空を彩る。
「おぉ、結香。綺麗だな」
「そうだね、綺麗……」
「ん?」
結香の返事が元気ない気がして俺は結香の顔をみて「どうした? 具合でも悪くなってきたか?」
「うぅん。ごめん、そんなんじゃない。ただこれで高校最後の文化祭になるんだって思ったら、ちょっとしんみりしちゃっただけ」
「そっかぁ……そうなんだよな。結香は進路、就職だから尚更か」
「うん……亮ちゃんは県外の大学だよね?」
「おう」
「何で県外にしたの?」
「別に深い意味は無いよ。近くに工業系の大学が無かっただけ」
「あ、そういう事だったのね……勉強頑張ってね。応援してる」
「ありがとう」
俺が返事をしたところで、結香は黙って俺を見つめてくる。多分、離れ離れになることを想像して、寂しくなってしまったのだろう。結香の運命の赤い糸は俺にキスをしてくれとアピールしてくる。
「……結香、目を閉じて」
「うん」
結香がソッと目を閉じた所で、俺は結香の肩を抱き……スッと優しくキスをする。この瞬間、結香が離れた場所を選んだのが、この為だったんじゃないかと思うと、抱きしめたくなるぐらい愛おしく思った。でも、名残惜しいけど結香の肩から手を離す。
「……亮ちゃん、良く私がして欲しいこと分かったね」と、結香は恥ずかしそうに髪を撫でながらそう言った。
「分かるに決まってるだろ。結香の赤い糸がアピールしてたぞ」
「へへ……こういう時、分かっちゃうのは良いんだか、悪いんだか……」
「何言ってんだ。分かりやすくて、良いに決まってるだろ? 」
「そっかぁ、良いのか。じゃあ、そういう事にしておく!」
「おう、そうしておけ」
話の区切りの良い所で、フィナーレと思われる色とりどりの花火が上がる。俺達は恋人繋ぎをしながら、それを黙って見つめ、最後の最後で良い思い出を残して、高校最後の文化祭は幕を閉じた。
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