第29話
月日が流れ、文化祭準備の季節になる。去年は結香と恋人になって初めて過ごした文化祭だったけど、割とイベントごとを一緒に過ごしてきた仲だけあって、特に何かやったということは無く、ブラブラ過ごしていた。でも今回は高校最後の文化祭になる訳だが……うーむ、今回も同じ様に特別な雰囲気になる気がしない。
「では、文化祭の出し物を決めます。何が良いか意見のある方、手を挙げて下さい」と、文化祭実行委員の男子が進めてくれる。
教室内がガヤガヤと騒がしくなり──1人の女子が手を挙げる。
「はい、どうぞ」
「私はお化け屋敷が良いと思います」
「お化け屋敷ですね、他に候補ありますか?」
実行委員の男の子がクラスメイトにそう言うと、縁日や脱出ゲームなど定番の出し物が挙げられた。
「思いのほか出たので、次に最後にします。他に何かありますか?」
「はい! メイド喫茶がやりたいです!」
ピンッと元気よく手を挙げたのはムービーメーカーの山本君で、満面な笑みを浮かべている。クラスメイトの男子たちも嬉しそうに騒ぎ出す。
メイド喫茶かぁ……結香のメイド姿、正直に言って見たい! でもあいつの性格だ、絶対に嫌だと良いそうだな。そう思いながら俺はチラッと結香に視線を向ける。
……うむ、無表情で分からん。ってことはメイド喫茶は無さそうだ。そう思って視線を戻そうとした瞬間、結香が突然、ニヤつき運命の赤い糸をヒョコッと出す。
それを見逃さなかった俺は、満更でも無いんだ! と喜び、是非ともメイド喫茶に入れようと決心した。
「はーい。興奮するのは分かりますが静かにしてください。じゃあこれで出し物の候補が挙がったので、多数決を採ります。読み上げるので自分が良いと思った出し物になったら手を挙げてくださいね」
実行委員の男の子が出て来た順番に読み上げていく──ということはメイド喫茶は最後だから、その頃には大体、結果が見えているだろう。
「──最後にメイド喫茶ですが……挙手してもらうまでもないですね。メイド喫茶に決まりです」
男子生徒達が歓喜の声を上げるなか、俺は心の中でガッツポーズを決める。結香の反応は悪くなかったから、俺の望みは叶うだろう。
※※※
休み時間に入り俺はジュースを買おうと廊下に出る。すると、結香もジュースを買おうとしているのか、一人で廊下を歩いていた。俺は駆け寄り……結香と並んで歩く。結香の表情は何故か浮かない表情をしていた。
「あれ、結香。何で暗い顔してるんだ?」
「何でって、文化祭の出し物がメイド喫茶になったからよ」
「え? 結香はメイド喫茶にしようとしてたんじゃないのか?」
「そんな訳ないじゃない。私は縁日にしたの!」
……考えたら俺、ほぼ確定だと思って結香が何に手を挙げたのか見ていなかった。
「じゃあ何で、メイド喫茶が候補に挙がった時に嬉しそうにしてたんだ?」
「! ……亮ちゃん、見てたの?」
「あぁ」
「……何でって分かってるくせに言わせないでよ」
「いやいやいや、分かってないから聞いてるんだけど?」
「……ただ単にいつものやつ。亮ちゃんはそういうの好きそうだな……って想像していたら出て来ちゃっただけ!」
「おう、良く分かってるじゃないか。じゃあメイド服を着てくれるのか?」
「絶、対、嫌ッ!」
結香は不貞腐れた顔で、スタスタと早足で行ってしまった。残された俺は追いかけることなく、結香を見送る。
まぁ……残念ではあるけど、無理強いは良くないからな。こうなってしまった以上、諦めるとするか。
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