第27話 ここから新エピソード追加
俺は今日、朝からソワソワしていた。何故なら今日はバレンタインデーだからだ! 振り返ってみると、今まで『幼馴染だからって何であんたにやらなきゃいけないのよ』って言われて、一度も貰ったことは無い。
それが照れ隠しだという事は結香の運命の赤い糸の行動で分かってはいるのだけど、今回はそれだけじゃ物足りない。何としても、直接受け取りたい気分だ。
俺は席替えのせいで隣ではなくなってしまった結香に向かって、自分の運命の赤い糸を伸ばしていく──。
こんなアピールしなくても、周りだってソワソワしているから今日がバレンタインデーだって事は気付いているはず。でも念には念だ。
俺の運命の赤い糸が最前列に居る結香に届く。結香は真面目に黒板を見つめているが、果たして気付くだろうか? とりあえず結香の後ろで待機させてみる。
──うむ、反応なしか。次はもう少し上の方に移動させて……脇腹辺りをくすぐる様に動かしてみる。
……これまた反応なしか。では、では今度は積極的に……俺は運命の赤い糸を結香の顔の前まで移動させ、ウネウネと動かしてみる。
すると……結香の運命の赤い糸は魚が餌を食べるかのように、俺の運命の赤い糸に喰いついて来た!
「ふふ……」
釣れた、釣れた……結香の奴、やっぱり気付いてやがったな。それから俺達は真面目に授業を受けているフリをして、運命の赤い糸で遊び始めた。こんな事をしていたって、先生はおろか、クラスメイト達だって気付かないし。
圭介と藤井さんは俺達の運命の赤い糸を見える様になっていると思いきや、全く触れてこないし、二人には見えてないのだろう。
──あっという間にチャイムが鳴り響き、授業が終わる。結香は直ぐにブレザーのポケットから携帯を取り出し、操作を始める。
様子を見ていると、俺の携帯にメールが届く。送って来た相手は……結香で、内容は……はいはい、分かってるから大人しく放課後まで待ってなさい、か……。
「ふふ……」
二人っきりの時は積極的なくせに、皆がいると恥ずかしいのか。まったく……可愛すぎるだろ。
※※※
放課後を迎え、俺は結香と約束した通り、学校の正門で待っていた。部活の方は部長に連絡をして、休むことを伝えてある。前みたいに試合は近くないし、部長は恋愛に関して理解があるから、先生に上手く伝えてくれてくれるだろう。
「……早く来ないかな、あいつ」
待ち遠しい気持ちが前に出て、一人で呟いていた所で、正面から結香の姿が見える。俺は、結香に向かって歩き出した。
「亮ちゃん、お待たせ」
「おう。じゃあ早速──」
俺はそう言って、結香の前に手を差し出す。すると……結香は歩いたまま俺の手を叩き落とした。
「いてぇな」
「まだよ。もうちょっと雰囲気の良い所で渡させてよ」
「……分かったよ」
俺は返事をしながら結香を追いかけ、並んで歩く──。
「ところで雰囲気の良い所って何処? 公園?」
「決めてないけど、学校の近くは嫌」
「恥ずかしいからか?」
「……えぇ、そうよ。恥ずかしいからよ」
「そうか、そうか」
満足げに俺が答えると、後ろから誰かに呼ばれた気がする。振り返ると、圭介と藤井さんがニコニコと笑顔を見せながら並んで歩いてくるのが目に入った。
「亮、今日は部活休んで結香ちゃんと一緒に帰るのか?」
「そうだよ。付き合ってから初めてのバレンタインデーだからな!」
「あはははは。本当、お前ら仲が良いな! まぁ、そうじゃなければ授業中に赤い糸でじゃれ合ったりしないか」
「!!!!」
俺が驚いている間に藤井さんが肘で圭介の腕を突き「こら圭ちゃん、からかったらダメだよ」とフォローを入れてくれる。
藤井さんの反応からして、きっと藤井さんも俺達の運命の赤い糸が見えている。くそぉ……話して来ないからって完全に油断した。
「だって、あんなにイチャイチャされたら、からかいたくもなるだろ?」
「まぁ……ねぇ。二人とも楽しそうで可愛かったから、何か言いたくなる気持ちは分かるかも」
「だろ?」
俺は圭介たちの会話を聞いて恥ずかしさのあまり、黙って俯く。チラッと結香の方に視線を向けると、結香も俯いていた。
「……ふふ。圭ちゃん、二人の邪魔をしちゃ悪いから、そろそろ行きましょ」
「そうだな。じゃあ、また明日」
「おう、また明日」
少し二人の様子を見守っていると、圭介は藤井さんの肩に腕を回し……抱き寄せる。お、おぉ……圭介、やるなぁ。
そして二人は俺達に見せつけるかのように、運命の赤い糸を繋げ、ハートマークを作る。くっそぉ……あんなに小さくて可愛かった赤い糸を、もうこんなに立派に成長させやがって。悔しかった俺は、黙って結香を見つめ、腕を広げてアピールをしてみた。
「やらないわよ。バカ」
「ふふ……はいはい、分かってますよ」
俺達は笑顔を見せ合いながら歩き出す。結香は俺が本当に結香の肩を抱き寄せたいっていうより、このやりとりをしたいが為にアピールしたのだと、見抜いてくれたのだろう。
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