第26話
冬休みに入ってから数日が経ち、混雑を避けるため三箇日が過ぎた所で俺達は初詣に行くことになった。
俺はいま神社の鳥居の前で、圭介と一緒に結香と藤井さんを待っている。二人ともラフな恰好をしていて、結香たちにもラフな恰好で良いと伝えてあるので、そうしてくるだろう。今日、重要なのはそこじゃないからな。
「なぁ、亮。今日来るのはいったい誰なんだ?」
圭介には悪いけど、今日、一緒に来るのは誰なのか伝えてはいない。藤井さんと伝えて話が拗れると厄介だからだ。
「もう直ぐ分かるって──ほら!」
俺は正面から歩いてくる結香たちを見つけ、指を差す。圭介は直ぐに気付き、目を見開いてビックリした表情をみせた。
「亮……お前、謀ったな!?」
「何の事やら」
「……」
しらばっくれたけど、圭介は無言で不満そうな表情を浮かべている。圭介は俺達と同じクラスだから、結香と藤井さんが仲良いって程ではない事を知っている。それなのに連れてきた相手が藤井さんなのだから、そりゃ疑うのは無理もない話だと思う。
──結香たちが俺達の前に立ち止まった所で、ちょっとギクシャクした空気が流れ始めたけど、言い出しっぺの俺は「おはよ、藤井さん。今日は宜しくね」と声を掛けた。
「おはよう、葉月君。うん、こちらこそ宜しくね」
藤井さんは挨拶を返し、ニコッと微笑む。その笑顔に応えるため俺も微笑んだつもりだったのだが……結香にはデレている様に見えた様で、少し冷ややかな視線をぶつけられる。いや、これ作戦だから……。
結香は直ぐに表情をかえ、笑顔をみせると「おはよ、圭介君」
「おはよう、結香ちゃん」
「さて……みんな揃ったし、藤井さん一緒に御参りしよう」
「え? え? 結香さんとじゃなく私?」
藤井さんは戸惑いを隠せず、俺と結香の目を見てから自分を指差す。
「うん、俺と一緒に行こう」
「じゃあ私は圭介君と御参りする。行きましょ、圭介君」
「あ、あぁ……」
圭介は返事をしながら、本当にそれで良いのか? と言いたそうな表情で眉を顰めている。圭介の中では俺達が喧嘩中とはいえ、一緒に行動すると思っていたのだろう。
「決まりだな。じゃあ藤井さん、俺達から先に行こう」と、俺は藤井さんの隣に移動して、ゆっくり歩き出す。
藤井さんが俺に合わせて歩き出し、後ろの二人も付いてくる──。
「藤井さん、この神社って縁結びで有名なのは知ってる?」
「うん、知ってるよ。友達も言ってた」
「そう。じゃあ今度、好きな人が居るなら一緒に来て、結ばれます様にって同時にお願いすると良いよ」
「…………うん。教えてくれて、ありがとう」
藤井さんはちょっと長い沈黙を挟んだが、笑顔で返事をしてくれた。これは楽しみだ。俺は藤井さんにキッカケを教えた事を運命の赤い糸で結香に教える。これで結香がちゃんと気付いていれば、圭介にも伝えてくれるだろう。後は作戦通りにいってくれることを願いだけだ。
三箇日が過ぎたとはいえ、お賽銭箱の前には行列が出来ていて、俺達も並ぶ……俺達の後にも続々と人が来て、俺は少し緊張していた。
──前の人の御参りが終わり、俺達の番になる。俺はすかさずしゃがみ込み「あ、靴の紐が解けた」
「もう亮ちゃん、何やってるのよ! どんくさいわね!」
結香は直ぐさま駆け寄って俺の横に来ると、しゃがみ込む。もちろん、これは演技だ。ちょっと胡散臭いけど、成功するだろうか?
「悪い、圭介。先に藤井さんと行ってくれるか?」
俺がそう言うと二人は眉を顰め、渋い表情を浮かべる。これはダメかと思った瞬間、圭介は藤井さんの腕を優しく掴む男らしい所をみせた。
「しゃーねぇな。どうせ二人で御参りしたかったっていうオチだろ? 周りに迷惑が掛かるし……
おぉ! 名前呼び! 圭介、ついに前に進む覚悟を決めたか!? 頑張れッ!!!!
「う、うん……そうね」と、藤井さんが返事をすると、二人は足並み揃えてお賽銭箱の前に行く。
良いか……二人とも同じことを願うんだぞ……と、子供の事を心配する親の様に見守っていると、後ろに並んでいる人に「あの……先に良いですか?」と言われる。
「あ~、ごめんなさい。もう終わるので」
俺は急いで靴の紐を結ぶフリをすると、結香と一緒に立ち上がる。そして圭介たちが終わると同時にお賽銭箱の前へと足を進めた。
願うことはもう決めてある。きっと結香も同じ願いをしてくれるだろう。だから……俺達の願いは運命の赤い糸の時の様に、間違いなく叶うはずだ。
──俺達は御参りが済むと、近くで待っていてくれていた圭介たちと合流する。
「待たせて悪かったな」
「大丈夫だよ。久しぶりに美波と話せたしさ」
「そうか。そいつは良かった」
圭介と藤井さんは率先して並んで歩き始める。二人の穏やかな表情からも関係が良い方に進展したのだと分かった。
「上手くいったみたいね」
「そうだな。協力してくれて、ありがとう」
「どう致しまして。ところでちょっと、うろ覚えなんだけどさ。私達の時って直ぐに赤い糸って見えたっけ?」
「うーん……それは俺もハッキリしないけど、見えてなかった気がする」
「だよね? だったら分からないか」
「分からないって何が?」
「二人の運命の赤い糸が見えるかどうか」
「あぁ……見えないだろ。だってお前も他の人の運命の赤い糸は見えないだろ?」
「そっかぁ……残念」
結香がそう言った後、前を歩く二人から、まるで産まれたてのベイビーの様に小さくて可愛い赤い糸がニョロっと顔を出す瞬間を捉える。俺は見間違えかどうか確認するため、直ぐに結香の方に顔を向けた。
「亮ちゃんも!?」
「うん、見えた。可愛い奴!」
「そうそう!」
妙にテンションが上がり、声が大きくなっていたのか、圭介たちが不思議そうにこちらを見てくる。
「どうしたんだ?」
「何でもございません!」
「あ、そう」
圭介が返事をして顔を正面に向けると、結香は笑顔で「私達の様にすくすく成長して繋がってくれると良いね!」
「ふふ、そうだな」
「──ふと思ったんだけどさ」
「なにを?」
「二人の糸が見えたって事は、私達の糸も……」
「もちろん、見えている可能性が高いよね?」
「ヤダァ……恥ずかしい」
「別に良いじゃん。逆に俺達先輩の糸を見せつけてやればいい」
「えぇ……」
マジでドン引きしている結香の顔をみて、俺はこれ以上、何か言うのは止めておこうと思う。
「ところで亮ちゃん。亮ちゃんは御参りの時、何を願ったの?」
「結香と同じことだよ」
俺はそう言って、結香の後ろに赤い糸を伸ばす。結香は俺に近寄り手を口で囲みながら「え、ここで繋がるの?」と耳打ちをした。
「後ろだったら分からないって」と、俺も耳打ちをすると、結香は「……もう、仕方ないなぁ……」と言いつつ、俺の後ろに自分の赤い糸を伸ばす。
──繋がった感覚は俺達には分からないが、きっと俺達の後ろで運命の赤い糸は繋がってくれているはずだ。
「これで何をお願いしたか分かっただろ?」
「うん……十分に分かったよ。ありがとね」
「こちらこそ」
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