第25話
悪戯をして怒られたワンコの様に、閉じ込められた俺はとりあえず、結香の部屋をグルっと見渡す。昔と比べて、雑貨は増えているものの……白を基調にした清楚な部屋をしている。
「お、結香。まだあのゲームやってるのか?」
俺はそれを確かめるためテレビの近くに転がっているマイホームを創ろうのケースに近づく。パカッと開けると、ソフトの方は入っていなかった。
「って事は、まだ入っているな」
俺の部屋で一緒に遊んでから少しして、俺はやらなくなってしまったけど、結香はまだやっていたのか。そういえば俺があげたアイテムで結香はどんな家を建てたんだ? 俺はゲームの方が気になってしまい、ゲーム機の電源を入れる──ゲームがスタートして結香に似ているキャラを動かしていると、テレビによく出て来る様なプール付きの豪邸の前へと辿り着いた。
「ほう、結香もこういう家に憧れているのか」
俺があげた珍しい木材は豪邸を建てるのに必要だ。だからこの家にはきっと珍しい木材が使われているに違いない。珍しい木材を使用した家は一つ特別に出来る事がある。それはネット環境のある人を招待して一緒に暮らせるという事だ。
結香は一体、誰と住もうとしていたのか? 俺はそれを探るべく奥地へと進んだ──。
「えっと……一緒に住みたい相手がいたら、表札に書くはず……」
豪邸の玄関に向かってキャラを動かしていると、バンッ! とドアが開く。驚いた俺は慌てて後ろを振り返った。
結香の部屋のドアを開けると正面にテレビがある。だから結香は直ぐに何のゲームをやっているのか分かった様子で「あ~、亮ちゃん!」と叫んだ。そして俺に近づき横に並ぶと、ドサッと勢いよく座る。
「私、ライトノベルを読んで大人しくしててって言ったよね? どうして、言うことが聞けないの? 悪い子ちゃんね」
「結香だって俺の部屋で好き勝手やる時あっただろ。それよりお前、この豪邸で俺と住みたかったみたいだけど、どうして誘わなかったんだ?」
「素材を貰った時は亮ちゃんと関りを持てる様に作っていたんだけど、こうして付き合うことが出来たし、中が未完成のまま、やめちゃったの」
「あぁ~、そういう事か……ん? じゃあ何でソフトが入ったままなんだ?」
「それは……恋人同士として亮ちゃんと同棲生活をゴニョゴニョ」
「……お、おう。後半がよく聞こえなかったけど何となく分かった。じゃあさ、せっかくだから少しこれで遊ばないか?」
「えぇ、良いわよ」
こうして俺達は久しぶりに一緒にゲームを楽しむ──。
豪邸の中は本当に何も出来ていなくて、俺はとりあえず「ここの部屋は何にする?」と聞いてみる。
「そこはキッチン」
「キッチン? それにしては狭くないか?」
「だったら、この壁壊してもう少し広げる」
「そうだな。そっちの大きな部屋は俺専用の部屋ってことで」
「なに言っちゃってるの? そこは部屋を分けて子供たちの部屋にするつもり」
「子供たち!? そ、そうか……分かった。確かに俺一人では広すぎる」
結香の奴、照れもせずサラッと言ったけど子供達ってことは、二人以上は欲しいってことだよな……頑張ろ。
俺達の言動がまるで同棲生活を始めるかのようで照れ臭い所もあったけど、そんな未来を夢みながら、部屋を作っていく。そんな俺達の運命の赤い糸は……自然と手を繋いでいた。
「──あ、トイレ」と俺は言って立ち上がる。
「分かった。場所は分かるよね?」
「うん」
俺は結香の部屋を出てトイレに向かう──用を足して部屋に戻ると、結香がビクッと体を震わせて、驚いた表情でこちらを見てきた。
驚くのも無理はない。だってさっきの俺と同じ様に、俺が使わせて貰ったバスタオルに自分の顔を埋めて、おそらくクンクンしていたのだから。
俺も驚きを隠せないまま「結香、それ……」と何とか声を出す。結香にとって俺のセリフがインパクトあったのか「えっとこれは……不可抗力というものだよ」と同じセリフを返してきた。
「おー……それなら仕方ない」と俺は言いながら部屋に入り、ゆっくりと結香に近づく。
「うんうん」
「で、感想は?」
「え? 感想? そうねぇ……私の匂いと亮ちゃんの匂いが混じってちょっとエッ──って何を言わすのよッ!」
結香は顔を真っ赤にさせ、俺にバスタオルを投げつける……俺は当たったタオルを拾い上げると、結香に差し出した。結香は黙ってそれを受け取る。
「ふふふ、臭くなくて良かった」
「臭くは無かったよ……? ──あ~、もう。亮ちゃんが変なタイミングで部屋に入って来たから、熱くなってきた!」
「俺のせいかよ」
俺がそう答えた時、一階の方で「ただいま」と聞こえてくる。どうやら結香のお母さんが帰ってきたようだ。
「お帰り~」と結香は返事をして俺に「どうする?」と聞いてきた。
「帰るよ」
「分かった。亮ちゃん、今日はありがとね」
「いや、俺の方こそ今日は色々とありがとう」
「色々?」
「うん、色々! じゃあ、また」
「うん、またね」
結香が笑顔で手を振り見送ってくれている中、俺は結香の部屋から出て行く──ダイニングで結香のお母さんと会って、お邪魔してましたと挨拶をしたとき、食事に誘われたけど……さすがに急だったので迷惑だと思い、断った。
それに……結香が俺の匂いの付いたタオルをクンクンしている刺激的な所を見てしまったから、これ以上は居てはいけないと思ったというのもある。
まったく……何が美しい薔薇だ。いまの結香には甘い匂いで誘惑してくる蜜しかないじゃないか。
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