第24話
「亮ちゃん。送ってくれて、ありがとう。家にあがっていきなよ」
結香はそう言って、家の玄関を開ける。
「え? どうして?」
「亮ちゃん。小さい傘なのに、ほとんど私の方に向けてくれていたから、肩がビショビショだよ」
「あー、直ぐに帰れるから大丈夫、大丈夫」
「ふぅー……そう言うと思った。流石、私ね」
「なに言ってんだ?」
「ちょっと、そんな冷たい目で私を見るんじゃない」
「だって突然、自画自賛しだすから……」
「良いじゃん、たまには自画自賛したって……それより、亮ちゃんが遠慮すると思って、亮ちゃんの好きそうなライトノベルを買ってきたの。一緒に読まない? 両親の車はまだないし、居ないから大丈夫だよ」
「そこまでして貰ったなら、寄らない訳にはいかないな。お邪魔します」
「どうぞ、どうぞ」
──結香の家には何度か来た事がるけど、久しぶりだからドキドキするな。そう思いながら結香の後を付いていき、ダイニングに入る。
「亮ちゃん、シャワー浴びる?」
「シャワーかぁ……」
髪とか濡れてるし、温まりたい気持ちはあるけど……。
「先に言っておくけど、一緒に入るのはNGよ。両親帰ってきたら、ゴニョゴニョ……」
「分かってるよ。俺はそこまで強いメンタルじゃない」
「本当?」
「本当だよ。そのニヤケ顔、知ってて弄ってるな」
「バレたかぁ」
「バレるわ。シャワーはいいや、入らない」
「分かった。じゃあバスタオル持って来てあげるね」
「ありがとう」
結香は通学鞄にしている手提げバッグを床に置くと、洗面所の方へと歩いていく。俺は立ったまま結香を待つことにした──。
「亮ちゃんお待たせ。はい、どうぞ」
「お、フワッフワッのバスタオルで気持ちが良さそうだ」
俺が結香から薄緑のバスタオルを受け取ると、何故か結香の赤い糸がモジモジしだす。
「どうした?」
「そのタオル……私専用のタオルだから気にしないで使ってね」
「!!!! お、おぅ……ありがとう」
「じゃあ私はシャワーを浴びてくるから」
「あ、結香。だったら先にお前の部屋いっていて良いか? 結香の両親のこと知っているとはいえ、ここに居ると落ち着かなくて……」
「うん、いいよ」
結香は返事をすると、洗面所の方へと歩いていく──。
「あ!」と、突然、結香は足を止めたかと思うと、こちらを振り向いた。
「どうした?」
「くれぐれも私の部屋を漁らない様に! 特にタンス!」
「フリか?」
「そんな訳ないでしょ!」
「はいはい、分かったよ」
結香が動き出すのを見てから、俺は結香に背を向け、頭を拭こうとタオルを自分に近づける。するとフワッと石鹸の良い匂いが漂ってきて……当然の様にクンクンと嗅いでみた。うん、結香の匂いがする。続いてタオルに顔を埋め、スゥー……っと、大きく吸い込んで嗅いを堪能してみた。
「おぉ……これは……」
癒される匂いで病みつきになりそうだ。どうして好きな女の子の匂いはこうも魅力的で身体を刺激してくるのだろうか? そんな事を考えながら幸せに浸っていると、ふと後ろが気になり、後ろを振り返る。するとそこには顔を真っ赤にさせた結香が立っていた!
「亮ちゃん……何してくれてるのよ、バカ! 変態!」
「えっとこれは……不可抗力というものだよ」
「なにそれ……知らない!」
結香は俺から顔をプイっと逸らし、手提げバッグを回収すると、怒っている? いや照れ臭いだけかもしれないがズンズンと歩き出す──いずれにしても、このままでは本当に痴話喧嘩になってしまう! そう感じた俺は、結香の後を追い掛ける。
「結香、ごめんて。でもさ、誰だって好きな女の子のタオルから良い匂いがしたら、ついつい匂いを嗅ぎたくなるって」
階段を上りながら俺がそう言うと、ピクッと結香の運命の赤い糸が動く。お、これは効いたか? 結香は自分の部屋の前に来ると、黙ってドアを開く。そして、部屋の中の方を指差しながら「んッ!」
中に入れと? 俺はそう思って先に結香の部屋の中に入る。結香も部屋の中に入ると、まずクローゼットを開けて、ハンガーを二つ取り出した。
「使ったバスタオルと、濡れた上着はこれ使って洋服掛けに掛けておいて」
「サンキュー」
俺はハンガーを受け取り、一旦、フローリングの床に置かせて貰う。
結香は手提げバッグからライトノベルを取り出すと、部屋の真ん中にある白いテーブルに置き「これ先に読んでて良いから、亮ちゃんはもう、ここで大人しくしてて」
「分かったよ」
「……さっきみたいなこと、私の下着でしないでよ? いい!? フリじゃないからね!」
「し、しないよ!」
結香は少しの間、疑いの眼差しで俺を見ていたが……許してくれた様で、タンスから替えの服を出して、黙って部屋から出て行った。
「ふぅ……焦ったぜぇ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます