第21話
俺達はゲームセンターに行ったり、雑貨屋を見たりと時間を潰し、開演20分前ぐらいに映画館に行く。チケット売り場は割と混んでいて、結香が選んだ映画は人気なのだと分かる──チケットを買うと直ぐに俺達はシアターに入場し、指定された席に座った。
「思ったよりギリギリだったな」
「そうね」
「この映画って恋愛ものだっけ?」
「そうそう。原作は小説よ」
「へぇー……通りで家族連れというよりカップルが多い訳だ」
「そういえば恋愛ものって苦手だっけ?」
「こうして恋愛を楽しんでいるんだから、苦手な訳ないだろ?」
「ふふ、そうね」
──5分と待たずに上映時間になり予告が始まる。日頃は何の映画をやっているかなんて気にせずに過ごしているから、俺はDVDでも割と予告まで見るのが好きだったりする。
食い入るように予告を見ていると本編が始まる。恋愛ものか……恋愛ものといっても、様々な種類はある。ラブコメか……それとも純愛か? 三角関係ものはヤキモチが強く出ちゃうから、ちょっと苦手……出来れば純愛ものであって欲しい。
──話が進み、大体の内容が見えてくる。タイプの違う女子高生と男子高校生が段々と惹かれ合う純愛ストーリーだけど、そこに余命系が入っている物語だ。余命系が苦手という人はいるけれど、俺は好んでドラマを観たり、漫画を読んだりしている。儚さゆえに真っすぐで、自分もこんな恋愛をしてみたいと感情移入をし易いからだ。
だけど……その分、涙が出やすいんだよなぁ。俺が鼻をかもうとズボンのポケットを漁っていると、スッと横からティッシュが渡される。
泣けるシーンなので、周りに迷惑を掛けない様、俺は黙って結香からティシュを受け取る。そして二枚ティッシュを取ると、結香に返した。
よく結香は平気だなって思いながら、静かに鼻をかんでいると、隣からも鼻をすする音が微かに聞こえる。そうだよなぁ……お前も俺と似たタイプだと思っていたよ。
──更に話が進み、ヒロインの女子高生が「最後まで繋がっていてくれて、ありがとう」と、主人公の男子高校生の手を握りながら伝えて、亡くなってしまうクライマックスシーンを迎える。
俺はそのシーンを結香と重ねてしまい、堪えていた涙が溢れ出るのを必死で上着の袖で拭った。そして隣に座る結香にソッと手を伸ばす。運命の赤い糸でも良かったけど、ここは本当に繋がっていたかったら……。
でも、あれ……? おかしいぞ? 結香の手がなかなか見つからない。疑問に思った俺は結香の方に目をやる。すると結香も俺と同じことを思っていたみたいで、スクリーンを観ながら手を動かしていた。
可愛さのあまり「ふ……」と、俺が笑った所で結香もこちらに視線を向ける。結香は状況が分かった様で照れくさそうに微笑んだ。
俺はスクリーンの方に顔を向け、今度こそキュッと結香の手を握る……俺のいまの気持ちを伝えるかのように……。
──映画が終わり明るくなったところで俺達は手を繋いだまま席を立つ。
「忘れ物ない?」
「大丈夫」
「じゃあ行こうか」
「うん」
シアターから出ると、俺達は邪魔にならない様に周りの人と同じ方向に歩き出す。
「友達から薦められた映画だったんだけど、本当に泣ける映画だったね」
「そうだな。あ、ティッシュ、ありがと」
「いえいえ。内容としては在り来たりなのに、何であんなに泣けるんだろ?」
「まず曲が良かったな」
「確かに! あれは卑怯だよぉ……」
「あとは……在り来たりだからこそ、本当にありそうで日常と重ね易いのかも?」
「──本当にありそうねぇ……」
「さて……これからどうしようか?」
「なかなかいい時間だし、ファストフード店でも寄って帰ろうか?」
「そうだな」
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