第17話
「結香、昼ご飯食べ終わったら、ちょっと良いか?」
次の日の昼。俺は自分の教室に居て、隣に座っている結香に話しかける。
「うん、良いよ。どうしたの?」
「恋愛相談をしたくて」
俺がそう切り出すと、結香は不思議そうに首を傾け「ん? 恋愛相談? 私達、付き合ってるのに?」
「いや、俺達じゃなくて。とにかくここだと話しにくいから、後で」
「分かった。じゃあ食べ終わったら声かける」
「おう、そうしてくれ」
──昼ご飯を食べ終わった俺達は、人気の少ない渡り廊下に移動する。
「単刀直入に聞くけどさ、結香と藤井さんって仲良いの?」
藤井さんと聞いて結香は運命の赤い糸をピクッ震わせるが、表情は崩さない。
「藤井さん? 正直、仲が良いって程ではないわね。でも私の友達と繋がっているから世間話ぐらいはしたりするよ。で、何で亮ちゃんがそれを聞くの?」
「いやさぁ……藤井さんってクラスの男子に凄く人気があるじゃん? その割には浮いた話を聞かないから、その理由を結香は知ってるのかな? って思ってさ」
「──つまり……その相手が自分じゃないかと探りを入れろと?」
うっ……ヤキモチを焼いてくれるのは嬉しいけど、隠しながら話を続けると話が拗れそうだ。
「えっと……そうじゃなくて。俺が勝手に動いている事だから、内緒にしておいて欲しいんだけど、俺の友達で藤井さんの事が好きな人がいるんだよ」
「それって圭介君?」
「良く分かったな」
「だって亮ちゃんの友達って言ったら、圭介君しかいないじゃない」
「まぁ……そうなんだけど、もっと濁すことは出来ないのかい?」
「正直者だから出来ない、無理」
「分かったよ……傷つくからそれ以上言わないで……」
「それにしても圭介君がねぇ……そんな雰囲気なかったし、むしろ避けている様にも見えたから意外」
「昔、何かあったみたいだよ」
「へぇー、そうなんだ」
「圭介のお蔭で俺達、付き合う事も出来たって所もあるし、頼めるか?」
「分かった、探りを入れてみるよ。私もちょっと気になるし」
「気になる?」
「そこは気にしなくて良いの!」
「……そう言われると余計に気になるけど、分かった。じゃあお願いします」
「うん!」
※※※
──その日の夜。ベッドの上で漫画を読みながら、くつろいでいると携帯が鳴る。相手は……結香だった。
「はい。どうした?」
「早速だけど、本人に確認してみたわ」
「え、本人に確認したのか?」
「えぇ、そうよ。友達に頼っても良かったけど、その方が手っ取り早いでしょ?」
「……そうだな」
確かに手っ取り早いけど、よく知り合い程度でそこまで聞けたな。行動力があるのは尊敬できるけど、どんな会話があったのか想像するとドキドキしてしまう。
「それで結香。何が聞けたんだ?」
「近くの公園で話そうよ」
「ん? 電話じゃ駄目なのか?」
「彼女と会うのは嫌かしら?」
「とんでもございません。直ぐに準備して向かいます」
「よろしい!」
──俺は白いセーターの上に黒いジャンパーを羽織ると、準備を済ませてから公園へと向かう。
公園に着くと、灰色のロングコートを着た結香が電灯に照らされたベンチの前で立ったまま待っていた。流石に寒い中、休んでいる人はいなくて、周りは静かだった。
「お待たせ、結香。急いで来てくれたのか?」
「え、なんで?」
「ハァ……ハァ……って、口から白い息が漏れてるから」
「……そんな事ないよ? 寒いからじゃない?」
「そっか。じゃあ風邪ひかないうちに本題に入ろうか?」
「そうね」
俺達はタイミングを合わせたかのように同時にベンチに座る。
「まず、圭介君と藤井さん、私達みたいに幼馴染なんだって」
「そうだったのか。俺と圭介が仲良くなったのは高校の時からだったから、通りで昔のことを振り返っても分からない訳だ」
「でね。周りがからかってくるぐらい仲が良かったみたいなんだけど、藤井さんが中学の時に発した言葉で、圭介君と疎遠になっちゃったみたいなの」
それが圭介の言う誤解に繋がるんだろうけど「何て言ったんだ?」
「ほら、中学だろうが高校だろうが、どのクラスにもリーダー的存在っているじゃない?」
「おう、いるな」
「藤井さんって今はクラスで輝いているけど、中学の時は大人しくて、そのリーダー的存在の女の子グループに付いて回っていたんだって」
「ほう、それで?」
「それで、その女の子が圭介君を好きになっちゃって、嫉妬で藤井さんに嫌味を言う様になってきたんだって」
「女って怖いな」
「ちょっと、私をみて言わないでくれる?」
「はい……」
「それで耐え切れなくなってきた藤井さんがある日、逃げるために『圭介君とは幼馴染なだけだから』って言ったんだって」
「何となく読めてきたぞ。それを圭介が聞いていたから、疎遠になってしまった」
結香が「そう! 正解!」と言って、俺にビシッと人差し指を向けるので、俺は両手を上げながら「やったぁ」と喜んでみる。結香はのってくれると思いきや、運命の赤い糸と共に冷たい目で俺を見つめていた。
「何やってんだ俺は……」
「あんたが勝手にやったんでしょ、巻き込まないで」
「はい……」
「藤井さんとしては、言えなかったけど心の中で今はまだって付けていたみたい」
「って事は……両想いだったって事か……」
「ちょっと違うかな」
「違うって? 何が違うんだよ?」
俺が聞き返すと結香は何故かニヤァと可愛い顔を崩す。可愛いのだけど、何か勝ち誇っている様で、ちょっと憎たらしい。
「だったじゃないよ。今でも両想いなんだよ」
「あ……あぁ、そういう事か……ん? だったら何で体育祭の時に俺を応援したんだ? 余計、勘違いさせてしまうんじゃ」
「確かにそうね。それでも藤井さんは、今の状況から動きたかったみたいよ」
「なるほどね……だから二人ともモテるのに、浮いた話が無かったって事か」
「ふふふ、亮ちゃん。残念でした~」
「……残念だって言う割には、妙に嬉しそうじゃねぇか」
「そう見える?」
「あぁ、見えるね」
「だってぇ……もう亮ちゃんを取られる心配をしなくて済むんだから、私にとっては嬉しい事じゃない?」
「!!!!」
驚きのあまり言葉を失うとは、まさにこの事を言うんだな。まさか結香からこんな甘々なセリフがブッ込まれるなんて思ってもみなかったぜ。
「お、おぅ……」
俺はとりあえず今の嬉しい気持ちを伝えるために、運命の赤い糸の出動を許す。俺の赤い糸は一目散に隣に座る結香の赤い糸に突撃し……エチエチに絡み合う。そして結香も受け入れてくれた様で、また一本の糸へとなっていった。そこでふと、俺は一つの事に気付いた。
「もしかしてなんだけど……」
「なに?」
「結香が息を切らしていたのは、急いでそれを俺に伝えたかったからだったりする?」
図星だった様で結香は猫の様に目をまんまるくさせると、頬を真っ赤に染める。そしてバッと勢いよく立ち上がった。
「し、知らないッ!」と言いつつ歩き出すも……運命の赤い糸は繋がったままだというのが、結香らしくて愛おしい。俺はゆっくりベンチから立ち上がり、結香を追いかける。
「おい、結香。待ってくれよ~」
「知らないって言ってるでしょ、馬鹿!」
「馬鹿は酷いなぁ」
──こうして俺達は、歩いている距離はあるものの、運命の赤い糸で手を繋ぎながら仲良く家まで帰る。そうあって欲しいと思っているからか、二人の運命の赤い糸は前よりちょっと太くなっている様な気がした。
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