第13話
昼休みは終わり授業が始まるが、俺は当然、集中できなかった。結香の奴……スタメンに入れないような男は好みじゃないからって、石井に乗り換えようとしているのか?
だとしたら、あの日のキスは何だったんだ……!? 嘘だったのか……? ──いや、あの日の俺達はしっかりと一本の太い赤い糸で結ばれていた。きっとあの時は、お互い本気で好きだったに違いない。
だとしたら……恋愛って案外、簡単に崩れ去るものなのかもしれない。
「はぁ……」と、周りに分からないぐらい小さな溜め息をつくと、黒板の方に目を向ける。すると、斜め前に座る藤井さんが目に入った。
相変わらず人を惹きつけるほど、綺麗な顔をしているなぁ……それなのに、誰とも付き合ってないなんて、信じられない。
──あ……そういえば藤井さんが俺のことを好きっていう噂は結局のところ、どうだったのだろうか? もし本当だったとしたら……って、俺は何を考えようとしているんだ! やめろ、今それは考える事じゃない!
俺は慌てて首を横に振り、いまは恋愛の事を考えるのをやめて授業に集中することにした。
──すべての授業が終わり、クラスメイト達は各々、教室を出て行く。俺は部活に出ようか迷ったが、こんな気持ちで部活に出てもダメな様な気がして、帰るために席を立った。
「亮ちゃん、ちょっと待って」
後ろから結香の声が聞こえる。でも俺は無視をして歩き始めた。
「亮ちゃん、一緒に帰ろうよ。話がしたいの」
無視をしているのに、何で追いかけてくるんだよ……。
俺は……不満を抑えきれず、攻撃的な気持ちが前に出て「何でだよッ!? 俺が誘っても、用事があるから帰らないって言ったのはお前だろうがッ!!」と怒鳴ってしまう。
「それは……言ったけど……」
結香が言葉を詰まらせている間、俺は黙って歩き出す──流石に結香は諦めた様で、その後は足音が聞こえてこなかった。
「──だから、嫌だったんだ」
結香を怒鳴って傷つけてしまった事が引っ掛かり、胸がズキズキ痛む。こんな事なら、早く帰っていれば良かった。
──校門を出て一人で帰っていると、後ろから走ってくる誰かの足音が聞こえてくる。まさか、結香じゃないよな? と、ふと思ったけど、きっと関係ない誰かだろう。
俺は構わず今のペースで歩き続ける。すると後ろから「おーい、亮。帰るなら一緒に帰ろうぜ」と、圭介の声が聞こえてきた。
なんだ圭介か。俺は足を止め、後ろを振り向くと圭介を待つ──圭介が隣に来たところで、また歩き始めた。
「お前、部活は?」
「そういう圭介こそ、部活はどうしたんだよ?」
「サボった」
「同じく」
──俺が返事したところで、会話が途切れる。何か話がしたくて俺を追いかけて来たのかと思ったけど、どうやらそうではなかったらしい。俺も特に話す事がないので、そのまま歩き続ける。
「なぁ、亮」
「ん?」
「結香ちゃんと何かあったのか?」
「は? 何でそんな事を聞くんだよ?」
「さっき、お前が怒鳴っているのが聞こえてきた」
「あ、あぁ……そうか」
あの時はカッとなって、周りを見ていなかったから気付かなかったけど、考えれば教室で怒鳴ったんだ。誰が聞いていてもおかしくはない。という事は圭介、心配してきてくれたのかな?
「まぁ~……何も無かった訳じゃないけど、話したくない」
「そっか……何があったか分からないけど、親友として言っておきたい事があるんだけど良いか?」
「なんだよ?」
「お前が悩んでること……それって本人に確かめたのか? 単なる誤解じゃないのか?」
「圭介……お前、何か知ってるのか?」
「いや、全く。だけどさ、俺……単なる誤解で取り返しのつかない事しちゃって、今でも後悔しているんだ。だからお前にそれを伝えたかった。それだけだ」
「そう……ありがとう」
「うん」
考えたら俺、圭介の恋愛話は何も聞いたことが無かった。圭介だってイケメンなのに浮いた話が何一つ無いって事は、圭介が言っている事は本当なんだろうな。
誤解か……多分、運命の赤い糸が見えなかったら、誤解と聞いて、そういう事もあるかも? って思ったかもしれない。でも……残念ながら、俺には結香の運命の赤い糸が見える。
授業中はそうであって欲しくなくて色々と考えていたけど……あれはやっぱり石井に対して結香が赤い糸を見せたで間違いないと思う。
誤解だったら、どれほど良かったか……こんなに苦しむぐらいなら、いっそ運命の赤い糸なんて見えなければ良かった。
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