第12話
月日は流れ、肌を刺すような冷気が吹いている中、いつも通りの時間帯で通学路を歩いていると、赤いマフラーを首に巻き付け、寒そうに歩く結香を見つける。
俺は温かくしてやろうとニヤニヤしながら、駆け寄ると結香の横に並び「結香、おはよ。今日も俺と一緒に登校できるぞ、嬉しいだろ?」
すると結香は可愛い顔を歪めて、あからさまに嫌そうな顔をする。
「そんなの分かってるくせに。何言っちゃってんの、キモっ」
結香は一緒に花火を見たあの日、運命の赤い糸を交えた仲だというのに、相変わらず辛辣な態度を見せてくる。まぁ、でも結香の言う通り、答えはもう分かっている。俺達の運命の赤い糸は、当たり前の様に手を繋ぐかの如くクルクルと巻き付いて、嬉しそうにしているのだから。
「照れちゃって、可愛い奴だな」
「うっさい……」
「にしても不思議だな」
「なにが?」
「俺達の赤い糸、確かにあの時、一本の太い糸になったのに、いまはこうしてまた二つに分かれて存在してる事だよ」
「まぁ……ねぇ……だからって何か変わる訳ではないし、良いんじゃない?」
「確かに。それに結香の本音を見られるし、この方が俺的には嬉しいかな」
俺がそう言って、結香の反応をみるため、俺は顔を向ける。結香は顔を赤くしながら、俺の方に顔を向けず「またそうやって、私をからかって……やめてくれる?」
「はいはい」
恥ずかしがって、俺から逃げていた結香も可愛いと思っていたけど、こうして逃げることなく俺の隣を歩いてくれているのが嬉しくてテンションが上がった俺は「なぁ、結香。今日も一緒に帰ろうぜ」と誘う。
すると結香は何故か「え……」と、声を漏らし、一瞬、顔を歪めた。その表情から、これは照れ隠しとかじゃないと感じた俺は直ぐに口を開く。
「えって何だよ? 嫌なのか?」
「いや……とかじゃないけど、そろそろ亮ちゃん、バスケの練習試合があるんでしょ? 良いの?」
「それは……あるけど……」
ここのところ伸び悩んでいて、正直、スターティングメンバー《スタメン》に入れるかどうか怪しい所。だったら……だったら、結香との時間を大切にしたい。
「一日ぐらいサボたって大丈夫だろ」
俺がそう返事をすると、結香は俯き加減で黙り込む。スルッと結香の赤い糸が解けたのが見えると結香は「ごめん……今日は用事がある」と、早足でスタスタと先に行ってしまった。
俺は追いかける事は出来たけど、追いかける気分になれなくて、ゆっくり足を止める。
「なんなんだよ、もう……」
──教室内にチャイムが鳴り響き、授業が始まる。俺は今朝の事が気になって、隣の席に座る結香の方に視線を向けた。
結香の赤い糸がオロオロしながらこちらを見ていたが……俺の視線に気付いたのか結香の体で見えない奥の方へと引っ込んでしまった。
その様子から、結香も今朝の事を気にしているのだと思う。嫌われた訳ではないのは分かったけど……胸の中のモヤモヤが消えてくれない。
好きな人と一緒に居たいから部活をサボる……それはそんなにダメなことなのだろうか?
※※※
──距離感が掴めず拒絶された気分になった俺は、結香と話し合う事もせずに数日を過ごす。今までだって、結香と何も無いまま過ごしていた事はあった……あったけど付き合う前とは、ちょっと違う気がする。
何が? と言われれば上手くは言えないけど……近くに居るのに届かない焦りや不安が入り混じっていて、すごく寂しくて落ち着かない。
そんなある日の昼休み。俺は昼飯を買うため、教室を出た。一階にある売店に向かうため、階段に向かって歩いていると、微かに結香らしき声が聞こえてくる。俺は話の相手が誰なのか気になり、ゆっくりと近づいた。
──階段の踊り場に結香と……石井がいる。なんで振った奴と一緒に話してるんだ!? 俺はイラっとして、話を聞いてやろうと近づこうとしたが……その場に踏みとどまった。
ダメだ。これ以上、近づいたら結香の赤い糸に気付かれてしまうかもしれない。仕方がない……何を話しているかは、よく分からないけど、表情はここから見える。ここで様子を見るとしよう。
──結香の表情は真剣で、石井の表情は背中を向けているから分からないけど、黙って聞いているから真面目な話なのだろう。そして、微かだけどスタメンって聞こえてきた。という事は俺達の部活の話を聞いているのか?
そう思っていると、突然、結香の赤い糸がヒョロッと顔を出す。なんで……なんで突然、赤い糸が顔を出したんだ!? 俺はその理由が知りたくて、少しずつ足を進める。
すると……結香の赤い糸が俺の存在に気付いたのか、ビクッと糸を震わせた。ヤバっ! 俺は慌てて階段から離れる──。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
クソっ! 何でこんなことになってんだッ!!
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