第14話
それから更に数日が経ち日曜日になる。いまさら遅いかもしれないけど、俺はその間、スタメンを目指すため毎日、部活にでて必死に汗を流した。
俺の中では結香への想いがまだ残っている様で、俺の運命の赤い糸はゲッソリとやせ細った様に元気が無いけど、ちゃんと存在はしている。
だけど結香の運命の赤い糸は、見えていない──いや、見るのが怖くて、最近は結香の方に視線を向けていないが正解か。まぁ、どちらにしたって結果は同じだろう。
今日はバスケの練習試合……俺は今、応援席にほとんど人のいない小さな体育館で、スタメンの発表を聞こうとしている所だ。顧問の先生は見渡すと「全員、集まったな。じゃあスタメンの発表をする」
先生が一人目……二人目……三人目……と発表し、四人目の名前をあげる。ここまでは、いつもスタメンだから仕方がない。問題は最後の五人目だ。
「最後は……」と、先生は迷っているのか言葉を詰まらせたけど、「石井。お前だ」
だよな……先生が一瞬、俺の方を見たから期待したけど、直ぐに視線をズラしたから、そうだと思った──俺は悔しいけどベンチに向かい、大人しく試合を見守る。
良いなぁ……俺も最初から試合に出たかった。俺は運動神経が良い方ではないけど、昔から体を動かすのは好きな方だった。
だから小学校の頃に読んだ平凡な高校生だけど、努力して成り上がっていくバスケ漫画に影響されて、バスケを始める様になったんだ。
最初は下手くそで、ドリブルしている途中でボールを蹴り飛ばしてしまったり、両手で投げているのにゴールに届かなかったりして悔しかったけど、段々と上手くなる自分が嬉しくて、暇さえあれば体育館に行ってバスケをする様になっていった……。
そういえば、その漫画の途中でヒロインの女の子が出て来て、嫌がる結香を無理矢理、一緒に居させたこともあったっけ。可哀想な事をしてしまったけど、あいつも段々とその気になっていって……気が付いた頃には漫画のセリフを言いながら楽しんでいたな……。
昔を思い出してきたら、体を動かしたくてムズムズしてきた。1分、1秒でも早くコートに立ちたい! 俺はそう思いながら、いつ交代してもいい様にチームメイト達の動きを目で追っていた。
──俺の出番が無いまま、刻々と時間が過ぎていき、残す所あと5分になってしまった。得点は61対64と負けてはいるものの十分に巻き返せる差だし、俺の出番はもうないかもしれない。半ば諦めて試合を見ていると、審判の笛が鳴る。
「チャージング。白10番!」
ファウルをしたのは石井だ。石井はこれで三つ目、退場を避けるために四つ目でベンチに下げる事はあるけど、きっと先生は下げないだろう。
「おい、葉月。石井と交代、アップしとけ」
「え!? あ、はい。分かりました」
俺は交代の準備をしてからウォーミングアップを始める。石井と交代? 何で? そう思いながら石井のプレーを見ていると、納得する。なるほど、疲れてきていて思う様に体を動かせていないからファウルをしたんだ。いまは重要なところ、追加点を敵に与える前に交代しておきたいってことか。
──チームメイトがパスカットしたボールがサイドラインを割る。そこでブザーが鳴り響き、交代が認められた。
俺はコートに入り石井の前に立つと、「石井、交代だってさ」と告げた。予想した通り、石井は怪訝な表情を浮かべ睨みつけるかのように俺を見る。
「よりによって、何でお前なんかと代わらなきゃいけないんだ! まだ動けるのに……」と、石井はわざとなのか俺に軽く肩をぶつけて、コートの外へと向かっていく。
相変わらず感じが悪い。何でこんな奴に結香が……っと、今はそれを考える時じゃない。俺は石井がいたシューティングガードの位置につき、守りに入る。
「葉月。石井の事は気にするな、いつもの嫉妬だ」
後ろのパワーフォワードのチームメイトが声を掛けてくれて、俺はチラッと後ろを向くと「はい! ありがとうございます」と返事をする。
試合が再開し、俺は心地よい緊張の中、集中していく──楽しい……楽しい! ベンチに座りながらチームメイト達の動きだけじゃなく、敵チームの動きも見ていたから、何となく動きが読めてくる。
俺は敵からボールを奪うとフォワードの後輩へと繋ぐ。後輩は危なげなくレイアップシュートを決めてくれて点差は一点差となった。時間は残り2分、これなら逆転を狙える。
敵チームのボールを持っているポイントガードの動きを見ていると……早速、チームメイトがボールを奪う。俺はその瞬間を見逃さず、敵チームのゴールに向かって走り出した。
──スリーポイントラインで立ち止まると、早速、ポイントガードのチームメイトからパスが飛んでくる。俺は落とさない様にしっかりと受け取ると、瞬時にこの後のストーリーを描いた。
俺はまだフリー、ここでスリーポイントシュートを決められれば、例え時間内に二点を入れられても同点となり、延長戦へと持っていける。だけど、外す確率は高い! だったらこのまま確実な、レイアップシュートかゴール下のシュートに持ち込む。
俺はドリブルをしながらゴールへと向かう……が、敵チームのシューティングガードが俺の前に出てくる。
隙のない敵チームのディフェンスにビビった俺はジャンプシュートに切り替えようとドリブルしながら後ろに下がろうとする。そこへ!
「亮ちゃん、ビビるなッ! そのまま突っ込めッ!」と、微かに結香の応援が聞こえてくる。俺はあれこれ考えずに声に従い、姿勢を低くしてドリブルで敵をかわし、全力で前進した。
後ろに下がろうとした仕草がフェイントになった様で、敵は視界に入って来ない。俺は焦る気持ちを必死で抑えながら1……2……と踏み込み──レイアップシュートを決めた!
「よっしゃぁ!!」と、嬉しさのあまり思わず大声を出しながら、自陣に戻る。
残り時間はまだ1分30秒近くある。逆転されてもおかしくはない時間がまだ余っているんだ。だから大人しくしてろ、俺の運命の赤い糸!
俺はそう思いながら、結香の応援が嬉しくて体操選手の様にグルグルと大きく動き回って興奮している運命の赤い糸を必死に抑え込もうと、深呼吸をしていた。
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