第9話
その日の休み時間、俺はジュースを買おうと席を立ち、廊下を出る──廊下を下りようとしたところで、踊り場で結香と石井が、二人だけで話しているのを見掛けた。
考えたら体育祭の時、石井が結香に告白している所は見ていないんだよな……あの時、告白したのだろうか?
──悪いと思うけど、俺は何を話しているのか気になり、足を止めて聞き耳を立てる。
結香は眉を顰め、気まずそうな顔で「石井君、話って何?」と、口を開いた。
「体育祭の時に名前を出さなかったけど、結香さんの好きな人って……葉月君だよね? 借り物競で確信したよ」
休み時間は10分と短い。だからなのか、石井は行き成り本題を口にする。それを聞いた結香は更に険しい表情を浮かべた。
「だったら何? もうあなたには関係ないでしょ?」
「──やめておけよ。あんなやつ」
「はぁ!? 何でよ?」
「今日、藤井さんとイチャイチャしてるところ見たって、友達に教えて貰ったよ」
くそっ! 早速、圭介の言う通りになってやがる! 誰だよ、そんな事を石井に吹き込んだ奴!!
「藤井さんと亮ちゃんが? はっ!」
「何が可笑しいの?」
「亮ちゃんがあんな美人な藤井さんに手を出す訳ないって分かってるから笑ってるの! どうせ照れちゃって、まともに会話なんて出来ないでしょ」
それを聞いた石井は苦痛だったのか顔を歪めながら「あぁ……そう。せっかく教えてやったのに」と言って、階段を下って行った。
良かった……結香が俺の性格を良く知っていてくれて……俺は安心しながら、結香がこっちに来ても大丈夫なように来た道を戻る。
──あ、でもヤキモチを焼く結香が見られなかったのは残念だったな……って、そんなのは贅沢か。
※※※
月日が流れ、ミンミンゼミが忙しく鳴く季節になる。今日は水曜日、昼休みに入ると、いつもの様に購買でパンを買おうと廊下に出た。
「亮ちゃん、待って」
後ろから結香の声が聞こえ、俺は振り向き立ち止まる。
「どうした?」
「今週の日曜日、どうする?」
「どうするって?」
「お祭りあるでしょ?」
「あるねぇ」
「──あるねぇじゃないでしょ……だからどうするのか聞いているの!」
結香が何を言いたいのか、俺は知っている。俺達は毎年、この夏祭りに一緒に行って、屋台であれこれ買って、俺の家で一緒に花火を眺めながら食べる事をしているからだ。
でも、どうしたいのか結香の口から聞きたくて、俺は意地悪していた。
「結香はどうしたいのさ?」
「私は……あんたがいつも通りにしたいなら、付き合ってあげなくもないわよ?」
「じゃあ今年も一緒に行こうぜ」
「そう、仕方ないわね。その日、空けといてあげるか」
結香は顔色一つ変えずにそれだけ言い残し、教室の方へと戻っていった。まったく素直じゃなくて可愛い奴だ……俺は結香の赤い糸が犬の尻尾のようにブンブンと嬉しそうに体を振っているをみて、そう思った。
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