第6話

 昼休みが終わり体育祭は終盤へと差し掛かる。次の競技は女子のクラス対抗、借り物競争だ。今年の体育祭実行委員会はいつもと違うことがしたかったらしく、今回初めてとなる。


 結香のやつ、何を引くのかな? もしかして好きな人を連れてくるだったりして? そう思うとドキドキするが、さすがに実行委員はそこまでは書かないだろう。


 ──結香の番が回ってきて、結香は緊張した面持ちでスタート位置につく。結香は女子の中では走るのが速い方、お題によっては一位になれる可能性は十分にある。


 スターターピストルがグラウンドに鳴り響き、同学年の女子が一斉に走り出す──よし、良い走り出しだ。


「亮、結香ちゃんの応援してやらないのか?」と、隣に居る圭介が話しかけてくる。


「えー……いいよ。お題さえ簡単なら、まず結香が勝つって」

「リレーの選抜の時だって、お前の応援してくれてたんだから、こういう時ぐらいしてあげれば良いのに」

「分かったよ……おい、結香~。負けたら承知しないぞ~」


 野次を飛ばす様に俺が応援? すると、圭介は困ったように眉をしかめた。だって……クラスメイトのほとんどが俺と結香が幼馴染って知ってるけど、なんか恥ずかしいじゃないか。


 俺が照れている間に結香は、お題が乗っている机の前に到着する。手前の紙を手に取ると、素早く開いた。


 何が書かれていたんだ? 結香は、お題を見たまま、その場で固まった──が、直ぐに辺りを見渡し始めた。


 急に結香の赤い糸がニョロっと顔を出し、俺を指差すかのようにピンっと俺の方を指す。たまたまなのか、結香も俺の方に顔を向けた。


 ──結香が俺の方へと駆け寄ってきて、まさか本当に俺じゃないよな? と、心臓を高鳴らす。


 結香はグラウンドの砂の上で胡坐あぐらをかいてる俺の前に立ち止まると、手招きをしながら「亮ちゃん! こっち来て!」


 そのまさかだった~!!! 周りの視線が恥ずかしくて、顔がカァ……っと熱くなるのが分かる。


「なんで俺が?」

「つべこべ言わず早く立ちなさいよ! 負けたくないでしょ!?」

「はいはい」


 俺が面倒臭そうにゆっくり立ち上がると、結香は俺の手を握り引っ張る様に走り出す。


「おいおい……」と俺は言いながらも、結香に合わせて走り出した。


 結香は真剣なようで俺の方に全く顔を向けない。きっと手を握っている事だって、何とも思っていないだろうな。俺は握っている手に汗が滲み出て来ているのが気になる程、気にしているんだけど……。


 ──こうして俺達は無事に一位でゴールをする。司会をしてくれている男の子が近づいて来て、B組だと確認すると、結香からお題の紙を回収した。


 俺達は邪魔にならない様に歩き出す──。


「なぁ、結香。お題は何だったの?」

「──なんであんたに教えなきゃいけないの?」

「そう言うなよ。気になるじゃないか」


 結香はどうしようか迷っているのか無言で歩き続ける──ゆっくり足を止めたかと思ったら「勘違いしないでね?」


「しないしない」と、俺は返事をしながら足を止める。


「クラスで一番、仲が良い男友達……」

「あぁ、なるほど! お前、男友達、少ないもんな!」

「あんたが言うな!」

「確かに。だから俺も同じお題だったら結香を選ぶと思うよ」

「!!!!」


 俺が素直な気持ちを口にすると、結香は声にならないぐらい照れている様で、何も言わずに顔を真っ赤に染める。


「──馬鹿っ!」


 ふふ……結香にはちょっと刺激が強すぎたかな? 結香は怒鳴りつけるかのようにそう言って、俺を置いて皆の方へと行ってしまった。


 俺は込み上げてくる喜びを堪えきれず、笑みを零しながら、ハート形になっている結香の赤い糸を見送っていた。

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