第4話
学校のグラウンドにチャイムが鳴り響き、体育の授業が始まる。今日は体育祭のリレーに出る生徒を決める日だ。俺は足が速い方ではないが、頑張れば選ばれる可能性はありそうな気がする。だから一緒に走るクラスメイトに負けたくない。特に石井には……。
石井とは同じ部活だけあって実力が同じぐらいだと知っているのもあるし、あの話を聞いてしまったら負けるわけにはいかない。
それに女子の方もグラウンドでリレーに出る生徒を選んでいて、まだ走らない生徒はこちらを見ている。結香もその一人だ。
「はい。次、前に出て」
体育教師がそう言って、笛を口にくわえる。俺は位置につくと軽く深呼吸をした。走者は俺を含んで5人いて、石井はインコース、俺はアウトコース……横並びだから俺の方が不利だけど、最初から全力で振り切ってインコースに入ってやる。大丈夫、それでも完走できるぐらい体力はあるはずだ。
「よーい」と体育教師は言ってピーっと笛を吹く。俺は作戦通り全力で前に出た。
一人……二人……三人……と順調に抜いていき、残すは俺の前を走る石井だけになる。さすが石井だ。瞬発力が俺より上だけあって、なかなか抜かせくれない。
でも焦るな……体力は俺の方が上のはず──カーブを抜けたところで、石井の走る速度が落ちた気がする。チャンスか!?
「亮ちゃん! 何やってるの!? 後少しなんだから頑張りなさいよッ!」
微かに結香の声援? が聞こえてくる。俺はゴールした後、倒れこむ覚悟で、走る速度を上げた──が、石井も何故か速度を上げてくる。おい、そんな体力どこにあったんだよッ!? クソっ、距離が縮まらない!!
そう思っている間にゴールが近づく。俺は──あと一歩及ばず負けてしまった。くそ……俺は邪魔にならない場所に移動し、倒れこむかのように座る。
そこへ石井が近づいて来て、睨みつけるような目で俺を見下ろしながら「幼馴染だから応援してもらっただけなのに、デレデレしてるから負けるんだよ」と、嫌味を言ってくる。
「なんだよ、それッ!」
カァ……っと頭に血が上り、直ぐに言い返したが、石井は相手にする事なく俺に背を向け、行ってしまった。その態度が余計に腹立つ……勝負には負けるし、結香にはカッコいい所を見せられなかったし、踏んだり蹴ったりだな。
※※※
それから数週間が経ち、体育祭の日を迎える。俺はちょっと寝坊してしまい、一人で高校に向かって歩いていた。
「亮、おはよう」
後ろから圭介の声がして、俺は歩きながら振り返る。
「おはよう」
俺が挨拶をすると、圭介は横に並んで歩きながら「今日は珍しく遅いな」
「うん、寝坊した」
「そう。ところで石井の話、聞いたか?」
「石井の話って?」
「今日、結香ちゃんに告白するって言ってるらしいよ」
「え、そうなの……? 知らなかった、ありがとう」
「おう」
──そこで会話が途切れ、何だか気まずい空気が流れる。圭介は俺が結香の事が好きだと知っているから、親切で教えてくれているのだろうけど、俺は石井が結香に告白しても大丈夫だと思っている。だって今まで、結香が石井に対して、運命の赤い糸を出したことがないのを知っているから……。
焦ることは無いよな。しばらく様子を見よう。俺はそう思い、心配そうに俺を見つめてくる自分の赤い糸を落ち着かせた。
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