第3話

 教室に着くと、確かに俺の机の上に青色の御弁当箱が置かれていた。さすがに結香は隣の席におらず、友達の所に行っていた。俺は席に戻り座ると、御弁当箱の蓋を開け、中身を確認する。


 厚焼き玉子にソーセージ、海苔巻きオニギリに鶏の唐揚げ、肉だけじゃなく健康に気を遣ってくれている様で、ポテトサラダもちゃんと入っている。


 ソーセージがタコさんになっていて、オニギリは食べやすい様に小さめに握ってくれてある。手間暇込めてくれている事が伝わってきた。嬉しいなぁ……味わって食べよう。


「お、今日は弁当なのか」と、俺の席の前から友達の圭介けいすけの声が聞こえ、俺は顔をあげる。


「うん」

「弁当箱、新しくしたんだ」


 圭介はそう話しながら椅子に座ると、自分の御弁当箱を俺の机に乗せる。


「いや、これは違う。今日は結香が作ってくれたんだ」

「なに!? 愛妻弁当かよ!?」

「ばッ、声がでかい!」

「わりぃ」


 圭介の声に気付いて何人かのクラスメイトがチラホラこちらを見ている。恥ずかしいなもう……結香は──気付いていない様子で、友達と話を続けていた。でも結香の赤い糸はこちらをジッと見て、警戒している様子だった。


 俺は声のボリュームを下げながら「そんなんじゃないから。昨日、ゲームのレアアイテムをあげたから、御礼に作ってくれただけ」


「それにしたって羨ましいぞ。普通、幼馴染だからってなかなか御弁当なんて作って貰えないだろ。お前ら、付き合わないの?」

「まぁ……まだ、この関係を続けたいというか、何というか……」

「そんな調子だと誰かに取られちまうぞ?」

「誰かって誰だよ? このクラスには一番人気の藤井さんと二番人気の田中さんが居るから大丈夫だろ」

「呑気な奴だな……俺みたいにその二人に興味ない人だって普通に居るだろ」

「それって……」


 圭介も結香の事が好きって事か? だとしたら、まずい……圭介はスポーツ万能で顔もアイドルグループにいそうなぐらいイケメン。そして俺の唯一の友達だ。


 ここはちゃんと確認しておかないと後で後悔しそうだけど……俺が見える赤い糸は何故か結香と俺のしか見えない。だから聞くしかない。

 

 俺はゴクッと唾を飲み込むと、思い切って「お前も結香を?」


「ふ……そんな心配そうな顔するぐらいなら、もっと早く焦ろよな。俺はあくまで例えだよ」

「なんだ、びっくりさせるなよ……お前がライバルだったらマジで勝てる気しねぇんだから」

「まぁ……俺のは例えだったけど、このクラスで結香さんを狙っている奴を一人、知ってるよ」

「誰?」

「石井だよ」

「石井が?」

「思い当たる節があるんじゃないか?」

「うーん……言われてみれば……」


 あいつとは部活が一緒だが、確かに俺は何もしてないのに、あそこのパスは俺の方がもっと上手く出せたとか、ウザ絡みしてくる時が多々あった。負けず嫌いでそんな態度を取っているのかと思ったら、俺にヤキモチを焼いていたのか。


「俺達はもう高校二年……あいつも、そろそろ動き出すんじゃないか。気を付けろよ」

「ご忠告、ありがとう」


 そこから話が変わり俺達は弁当を食べながら、世間話を楽しんだ。結香が作ってくれた御弁当は、どれも凄く美味しくて、俺の赤い糸も終始、上機嫌だった。

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