第2話
俺は家に帰ると、転がっている邪魔なものを片付け、直ぐにゲームが出来る準備を始めた──するとコンコンとノックの音が聞こえてくる。
「どうぞ」
「──お邪魔します」
結香は返事をしながら、いつもの様にすんなり部屋に入ると、俺から顔を背けながら白いカーペットの上に座った。
「そこじゃ、尻が痛くならないか? ベッドの上に座って良いんだぜ?」と、俺は言って、自分のベッドの上に座る。
「誰があんたの隣なんかに」
と、言いつつ結香の小指から出ている赤い糸は正直者で、ベッドの前で揺れている。こういう所が可愛くて、ついつい結香が恥ずかしくなるようなことを言いたくなってしまうんだよな。
「あ、そう。じゃあ始めようか」
「必要なアイテムだけ貰って帰るからね」
「はいはい」
──ゲームを始め、木を伐採し続けてから数分後。
「まだ出ないの?」
「金色の斧を使っても100%じゃないって、お前も知ってるだろ?」
「つまらなーい。私、鉱石でも掘ってる」
「どうぞ。上質な鉱石が出たらくれよ」
「あれだって滅多に出ないから嫌よ」
「そう言うなって」
──それから俺達は貴重なアイテム狩りを始める。まぁレアと言うだけあってなかなかでなくて、途中、二人とも飽きてきて、お互いの近くに小さな家を建てて通行の邪魔をしたりと、悪戯をしながら続けていった。
真剣になっているからか、結香の表情は無表情だが、結香の赤い糸は……ウネウネと楽しそうに体を動かしている。楽しんでくれている様で何よりだ。
お互いが目的の物を手に入れた頃には外はもう暗くなっていて──。
「あ、もう18時30分じゃない」
「どうする? 家でご飯を食べていく?」
「いきなりご馳走になるなんて、そんな迷惑なこと出来る訳ないじゃない。帰るわよ」
結香はゲームのコントローラーを床に置くと、スッと立ち上がる。
「そう? お前と俺との仲だし、母さんは気にしないと思うんだけどな」
「小さい頃じゃあるまいし、それでも出来ないよ。じゃ、またね」
「そっかぁ……うん、また」
結香が手を振りながら、部屋を出て行く。俺はシュンと元気が無くなる俺の赤い糸と共に、名残惜しい気持ちを抑えながら見送った。
※※※
次の日の昼休み。俺は売店で昼飯を買うため、廊下に出る。
「
後ろから結香に声を掛けられ、俺は足を止めると後ろを振り向く。結香は小走りで俺に近づくと「あんた、歩くの早いわね」
「そうか?」
「あんた、今日は売店の日でしょ?」
水曜日はいつも母さんが早く出る日だから、俺はいつも売店で買っている。それを結香に話した事ないが「良く知ってるな」
「うっさい」
バッサリと切られて言葉を失っているのに、結香は会話を続ける。
「それより昼飯、買わなくて良いわよ」
「なんで?」
「何でって、その……作ってきてあげたから!」
「何で?」
「昨日の御礼よ」
「御礼って……お互い欲しいもの手に入ったんだから、御礼を貰うことはしてないが……」
俺がそう言うと結香は髪の毛を搔き乱す。
「あ~……もう! とにかく机に置いといたから、つべこべ言わずに食べて頂戴!」
「あ、あぁ……ありがとう」
結香は言いたい事だけ言って、直ぐに教室に向かって歩いて行ってしまった。俺の赤い糸は、行ってもいい? と言わんばかりにこちらに顔? を向けているが、俺は黙って首を振る。そして飛び上がりたいほど嬉しい気持ちを落ち着かせるように深呼吸をしてから教室に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます