ツンツンしている幼馴染の小指から伸びる、運命の赤い糸が俺には見える。

二重人格

第1話

 何の変哲もない爽やかな朝。いつもと同じ時間帯に通学路の並木道を歩いていると、光り輝く黒髪のポニーテールを揺らしながら、前を歩く幼馴染の結香ゆいかを見つける。


 俺は駆け寄り結香の横に並び「結香ゆいか、おはよ。今日も俺と一緒に登校できるぞ、嬉しいだろ?」と、からかうように口にした。


 すると結香は忖度抜きにして、クラスで二、三番目ぐらい可愛いと噂される顔を歪めて、あからさまに嫌そうな顔をする。


「そんな訳ないじゃない。何言っちゃってんの、キモっ」


 結香は相変わらずアニメのヒロインの様に可愛い声と裏腹に辛辣な態度を見せてくる。それなのに俺は変態なのか、ゾクゾクと鳥肌を立てていた。


 結香は行き成り走り出し「あ、小林さんだ。小林さん、おはよう」と、クラスメイトの小林さんに挨拶しながら、近づいていく。


 俺は一人残されてしまったが、そんなのは気にしない。だって結香の左手の小指から、ヒョッコリと顔を覗かしている赤い糸が見えて、そいつが首を横に振るかのように、ウネウネと動いているのが見えるから。


 俺の左手の小指から見える赤い糸も、嬉しそうにウネウネを動かしているのを見ると、ますますこれは運命の赤い糸だと実感する。


 ──だけど待てよ、待て。恋愛は付き合う前から恋人になりたての頃が一番楽しいと聞く。だから、もうちょっと我慢してくれ。俺は自分の赤い糸にそう言い聞かせ、スッと自分の中に押し込めた。


 ※※※


 授業が終わり休み時間になる。


 俺は隣の席に居る結香の方に体を向けると「なぁ、結香」と話しかける。結香は「なによ」と、警戒しているか眉間にしわを寄せながら、こちらに顔を向けた。


「今日、俺の部屋でゲームしようぜ」

「はぁ? なんであんたの家でゲームしなきゃいけないのよ。行くわけないでしょ」

「そう言うなよ。マイホームを創ろうあるだろ? 金色の斧が手に入ったんだ」


 マイホームを創ろうはクラフト系のゲームで簡単に言えば、素材を集めて、それで自分好みの家を造るゲームだ。出てくる家もそうだが、キャラクターも可愛くて、マルチプレイも出来るので男女ともに、長い間やっている人は結構いる。俺と結香もその一人。


 その中に出てくる金色の斧はなかなか手に入らないレアアイテム。そしてそれでしか手に入らないレアな木材があるので、欲しがっている人は沢山、居るのだ。


「どうする? 前に珍しい木材を手に入れたいって言ってたよな?」

「うぅ……卑怯ね」

「卑怯とは人聞きが悪いな」


 結香は行くわけないとハッキリ言った手前、迷っている様で、結香から見える赤い糸はオロオロしている。さて、何と言ってくるか楽しみだ。


「あー……そういえば今日、両親とも遅いんだった。私、カギが無いから入れないな」


 結香は随分と棒読みでそう言う。様子を見るかのようにソロリと見上げてくる結香の赤い糸をみて、ちょっと意地悪したくなった俺は「お前の家、合鍵を隠してあるだろ」


 それを聞いた結香の赤い糸はビックリマークでも出そうなぐらいビクッと体? を動かす。本当に面白いな、結香の赤い糸は……。


「しゅ、修理中よ」

「修理中って……鍵を壊すなんてどんなんだよ」

「と、とにかく両親が帰ってくるまで学校で待ってるのも暇だから、あんたの家に行ってあげる」

「はいはい、ありがとう。じゃあ今日は一緒に帰ろうぜ」

「え、それは……する訳ないでしょ」


 結香がそう言うと、赤い糸は結香の後ろにスッと隠れてしまう。はいはい、照れ臭いんですね。


「分かったよ。じゃあ家で待ってる」

「うん」

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