「第十四話」活人剣

握りしめた刀を、体の重心と共に移動させる。意外にも空を切る刀身には勢いがあり、どれ程の技術や研鑽が込められているのか……ソラには想像もつかなかった。──ただ分かるのは、これが自分の体に最も合った剣、いいや刀だということだった。


「──ふっ」


一呼吸に繰り出される斬撃は、最早人間の技ではなかった。剣の重さ、女性ならば避けられない膂力の制約から解き放たれたソラの剣速は、一つの間隙に幾つもの斬撃を放ったのである。


「────」


呻き声を上げながら、悪魔はその有り余る暴力を振るい続ける。しかし、それらは当たるどころかソラの髪の毛に掠りすらしない。ソラは攻撃を先読みし、死角へとすかさず飛び込み……悪魔の間合いの中を縦横無尽に駆けていたのである。女性の靭やかさ、臨機応変な判断が可能な冷静さ、そしてソラの他を寄せ付けない剣速だからこそ為せる技である。


呻き声を上げ続ける悪魔は、段々とその禍々しさと勢いを失っていった。ただ斬られたり殴られるだけならばたちどころに治るはずの傷が、いつまで経っても再生しないからである。──その理由を、己が作り上げた最高傑作の勇士を見守るアイアスは見抜いていた。


(とんでもねぇ奴だな、あいつ……あの物の怪の肉を削ぎ落としてやがる!)


成る程、どうりでいつまで経っても首を刎ねないわけだ。アイアスは静かに納得し、しかし炎のように滾る闘争心を抑えていた。アイアスは分かっていた、自分が今が見下ろしている戦いは、恐らく最も非効率で無駄の多い……それでいて、最強と称すのも馬鹿馬鹿しくなるほどの実力者でなければできやしないものだという事を。


(活人剣、初めに聞いた時は耳を疑ったが……なんともまぁ因果なモンだ、お前と同じような甘っちょろい考えをする輩が、この国にも居たんだな)


懐かしむが、決してその姿を重ねない。重ねては、いけない。

失われた命に続きは決して無く、彼女の魂はとっくに消え去った。それでいい、それでいいのだ。アイアスはとにかく目の前の戦い、消え去ったはずの魂の名を冠した愛刀の、その勇姿を見届けていた。


「ふぅううっっっ、ッづっ!」


加速する連撃、削り取られていく巨体。翼はボロボロになったところを根元から切り飛ばされ、肥大化した肉体は少しずつ、しかし迅速に削り取られていく。──そして、その中から出てきたのは、紛れもない人間の素肌だった。


「今、助ける!」


大きく息を吸い込み、吐き出すと同時に刃を振るう。二転三転縦横無尽に駆け巡る太刀筋は、月の光を煌々と照らし煌めかせながら、スルトを蝕む肉塊を全て抉り斬ったのである。


とうとう悪魔としての原型を留めることができなくなったそれは、ドロドロとした何かとなって流れ出ていく。──その泥の中から、スルトは力なく現れた。



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