第10話 人でなし

(まさかこの年になって、説教されるなんて。それもコレに)

 ガミガミうるさい空気に「はい」と相づちを打ちつつ、鈴子は心の中で大きなため息をついた。

 あるいは、この年で説教してくる相手としては、これ以上にないほど相応しいのかもしれない。何せ、鈴子より長くこの世に留まっているらしいのだから。


 結局の所、自身ですら性別の分からなかったゴウ。

 そもそも成り立ちからして本当に人かも疑わしい存在は、だというのに、白いワンピースに長い黒髪という、「いかにも」な格好について、ケロッとした顔で言う。

 これが今の流行っぽいから、と。

 ……またしても、ネットから拾ってきた情報のようだ。


 だからこそ、性別不明のゴウは、男でも女でも通用しそうな顔で、やはり男か女か分からないほど痩せこけた胸を張りつつ、決して捲れることのないスカート部分をふわりとさせながら、鈴子に人の道を説いてくる。


 自分は過去に、人を殺したかも知れない怪異のくせに。


 この場所を訪れる者に害意がある反面、それ以外についての記憶らしい記憶のないゴウは、自分の害意に当てられた相手の末路も、当然のように憶えていないという。

 とにかく、たくさんの人間を恨み、ここから退けた、そんなことしか記憶にない。


 それなのに、鈴子にはスカート捲りはセクハラだと怒り続けているのだ。

(完全な人でなしのくせに)

 心の中でそう思ったのが少しだけ外に漏れて「へっ」と音になった。

 もちろん見逃さないゴウは、ますます目をギョロリとさせて、語気を荒げるように強い感情をぶつけてくる。


 鈴子の腹が音を上げるまで。

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