第9話 確認事項

 剛、豪、強……。

 「ゴウ」という響きに漢字を重ねては、ソレ改めゴウの見た目に眉が寄る。

 さすがに「GO」ではないだろうが、どうにもゴツい。


(……そういや、そんな名前の姫さんもいたような)

 歴史の知識はほとんど時代劇由来。

 それもふんわりでしかないなら、自信はほとんどない。

 とはいえ、さすがに結びつける相手ではないと首を振ったなら、視界の端に白い裾を見て、更に上を見る。


 立ったまま、長い黒髪を垂らしつつ、座る鈴子をじっと見つめる黒い眼。

 気づけば大体合う視線の主としばし見つめ合い、再び白い裾まで戻っては、沈黙。


「ゴウ。ちょいとここまで来ておくれ」

 手招きに応じて滑るように近づく肉のない足。

「ああ、座らなくていい」

 そのまま至近に降りてくる顔の気配を、手のひらで制した鈴子は、その手でもって白い裾を掴み、勢いよく引っ張り上げた。


 ――が。

「ん? あれ? なんだと? このっ! くそっ!」

 何度繰り返しても、鈴子の思い通り動かない。

 なに?

 その内に怪訝な気配がゴウから伝わり、低く唸った鈴子は、急に裾から足へと掴む対象を変えた。

 瞬間、手のひらに伝わる、ビビクンッとした震えと、

 なに!?

 という非難の感情。


 併せて足が遠のき、鈴子は声を上げた。

「あっ! ちょいとお待ちよ」

 言って裾を掴もうとするが、足を掴めた手には捕らえきれず、

「うわ、服は触れないのかい。せっかく捲って調べようと思ったのに」

 なにを……?

「そりゃ、アンタが男か女か、いや、オスかメスかに決まってんだろ?」

 悪びれもせず、気まずさもなしに、ワンピースらしき白い服の裾を捲ろうとした理由をあっさり明かしたなら、ゴウは初めて見る類いの、ドン引きする顔を見せた。


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