代理

よるがた

代理

これは私(女)が小学3年生の時の話です。

今思い出すと不思議な話というか、、、

何故当時もっと怪しく思わなかったのか、という話です。


夏休みが終わって最初の登校日、

九月に入ったとはいえ、まだ暑い日が続いていました。


近所の子とばかり遊んでいた私は、

久しぶりにクラスの子と会えるのを楽しみに、教室の扉を開きました。

夏の間に背が伸びている男子や、

聞いてもいないのに延々と旅行の自慢話をしてくる女子と

話していると先生が入ってきて、みんなそそくさと席に着きました。


そこではじめて、

私の左隣の中山君の席が空いていることに気が付きました。

中山君はお休みのようでした。それに対して私は特に何も思いません。

すごく仲がいいわけでもありませんし、今日は始業式があるだけ。

確かに休んでも、そんなに問題ない気もします。

先生や他のみんなも特に心配している様子は見せていませんでした。


次の日、学校に行くと中山君はすでに登校していました。

私は特にどうして休んだのかを聞くこともなく普通にあいさつを交わしました。

その日からは普通に授業があり、消しゴムをなくしてしまっていた私は

隣の中山君に何度か消しゴムを借りたことを覚えています。


そして更に次の日の朝、教室で友達と話していると、

中山君が登校してきて、私の隣に座りました。


違和感がありました。


中山君がかなり日焼けをしていたのです。真っ黒に。

あまりにも記憶の中の中山君と違っていたので少し笑ってしまいました。


私 「え、日焼けした?」

中山「めっちゃしたよ!俺海外行ってきたもん!グアム!」


中山君は明るく答えました。


私 「え、いつ?」

中山「えっとねぇ、30日から昨日まで!」


私は一瞬思考停止しました。


私 「いや……、昨日日焼けしてなかったよね」

中山「?」

私 「昨日学校居たよね」

中山「いや、昨日は学校休んだよ」

私 「???」


私は先ほどまで話していた前の席の友達に顔を向けました。

「中山君が何か変なこと言ってるよ?」と共感と助けを求めました。

しかし友達は怪訝な顔をして私を見ているのです。


友達「昨日中山君いなくなかった?」

私 「え?」


いやいや、昨日中山君は隣にいたはずです。

何度か会話もしたはず…。


またも違和感を感じました。

中山君との会話の内容を思い出せないのです。


くだらない話しかしていないから。

という感じではなく会話をした記憶がごっそり抜けている感覚でした。


でも会話はしたはず、だって消しゴムも借りたし……


私 「そうだ!昨日消しゴム借りたよ!中山君に!」


二人ともあっけにとられている様子。


私 「ちょっと待って、

   昨日間違えて持って帰っちゃったんだよ消しゴム、家で気づいて…」


私は筆箱から消しゴムを取り出し中山君に渡します。


中山「いや、俺のじゃないよ」


中山が消しゴムを受け取りながら答えます。


その消しゴムは誰でも持っているようなまとまるくんの消しゴムでした。

しかし、


中山「あっ…」


中山君の消しゴムの底面には「中山」とサインペンでハッキリと書かれていました。

中山君が昨日学校に居て、私が消しゴムを借りていた証拠になるはずです。


中山「…」


中山君は無言でランドセルから筆箱を出し、中を確認します。


中山「いや、やっぱ違うよほら、あるもん俺の」


中山君が見せてきた消しゴムには同じく「中山」とありました。

同じまとまるくんの消しゴムです。

言葉を失った私に友達が微笑みながら話しかけます。


友達「ちょっと、中山って自分で書いたの?

   なんかおまじないでしょ?それ」

中山「おいやめろよー」


当時、消しゴムに好きな人の名前を書いて使い切ると両想いになれるというおまじないがありました。二人にそれと勘違いされていると思った私は急に恥ずかしくなり


私 「違うって!ホントに借りたの!返すからね」

中山「いや、いらないよ!」


中山君は消しゴムを私の机の上に返しました。

なんだか机にポツリと置かれたその消しゴムが無性に気持ち悪くなった私は

それを手に取りトイレに行くふりをしてゴミ箱に捨てました。


その後、

周りの友達や先生に昨日中山君が居たかどうかを聞いて回ったりはしませんでした。

私が消しゴムに中山君の名前を書いていると噂になることが怖かったのです。

なのでこの話に後日談やオチはありません。


ただ、今思えば。

始業式の次の日学校に来ていた中山君は、

中山君の真似をした『なにか』だったのではないか。と思うのです。


始業式の日の中山君は日焼けをしていませんでした。

そして、私が借りた消しゴムは、日焼けした中山くんの消しゴムよりも

少し大きかった気がするのです。


つまり『なにか』はグアムに行く前の中山君しか知らないため日焼け前の、

少し大きい消しゴムを持っている中山君に模倣したのではないか…ということです。


もしそうだとして

『なにか』とは何なのでしょうか。


最近、母や友達から私がいなかったはずの場所で「私を見た」と言われ、

この話を思い出しました。


この『私にそっくりな人』って、『ヒト』なんでしょうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

代理 よるがた @yorugata-aratame

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ