第5話 ハニートラップ
「ねぇー、あの子が『落ちこぼれのマイア』?」
「そう。なのにあの変態収容者のところにいるらしいわ。まとめて厄介払いでもされてるんじゃないの?」
「きゃはは!そんなとこだろうね」
ロッカールーム。そこは女だけの、噂話と嫉妬が渦巻く場所。
私はそんなことを気にせず、さっさと制服に着替えてここを出ていくことにした。そんな軽口なんて、昔過ごしていた場所に比べればまだまだマシだ。
*
「マイアちゃんー?どうかしたー?ため息なんかついちゃってさー。まあマイアちゃんのそんな姿も絵になるけどねー。金髪に青い目のナイスバディな美女のため息だよ?需要しかないよね!」
「…殴っていい?」
「どうぞ!」
「やっぱやめた」
えぇー!期待させといて断る感じー?あぁそれもたまらないねぇー!などと意味不明なことを供述しているが無視。
ここ最近で色々な情報を引き出せているので厳しい尋問はしなくてもいいらしい。ここの最長収容期間を更新中なのだから、もういっそこのまま収容していてもいいんじゃないかという考えがあるらしい。
「ねぇねぇ殴らないの?いいの?イラつかないの?」
「イラつくけどわざわざあんたに触って手を汚すのが嫌なのよ」
「うっは…!たまらん…!…うぉほほ…!」
妙な鳴き声が聞こえるがまあいいや。
「あんた、ここでどんな扱いをされてるか知ってる?」
「あ、もう『あなた』って言わなくなったの?『あんた』の方が雑だけどその分距離が近い感じで良いなぁ」
うんうんと頷くがそんなことはどうでもいいのだ。私はナイフの切っ先を向けながら再度問う。
「で、どんな扱いか知ってる?」
「変態迷惑お荷物」
「っははははは!合ってるわ!」
その通り過ぎる。しかもこれを不機嫌そうな顔でそっぽ向きながら言ったのだからなおさら面白くてしょうがない。
「えぇー。そんな笑うー?酷いなぁマイアちゃんはー」
「はぁー…。面白いわよ。それで一切態度を変えていないところが」
笑い過ぎて出た涙を拭いながら言う。久々に面白いことがあった。
「こないだも言ったでしょー?もうこんな状態だもんねー。楽しむしかないんだよー。例えその相手が人間だとしてもねー」
「尋問官よ」
ここ最近の仕事相手は彼だけだから何だか慣れてしまった。そのおかげですっかり慣れている。上司からも「このまま君が適当に話していれば、いつか思い出すかもしれないからとりあえずそのままでよろしく」なんて言われているし。
「ねぇねぇ、マイアちゃんは鎖で手足を繋ぐとか、火あぶりとかそういう派手な拷問はしないのー?」
「ああいうのねぇ…。申請とか後始末が面倒なの。逆にあなたはやりたいの?」
「こっちも色々面倒だしなー。火あぶりとか水責めとかって片付け大変そうだよね。兵糧攻めは楽なんだろうけど、こっちが勝手に冬眠状態になるだけだし、その結果死ぬかもしれないから禁止されたんだよね」
つまりは一度やられたのか。また今度調書を見直さなければ。
「面白かった拷問ってある?」
「おぉー、聞いちゃうんだ。ここの全員と会ったからね。拷問ますたーに死角なし!」
ピシッと指をさして決めポーズをとるが、マスターという単語には馴染みがないようで微妙に決まってない。東の人間だし。
「火あぶりとか普通のは置いておいて…地味に嫌だったのはくすぐられるのとか、薬とかだねー」
拷問ますたー曰く、くすぐられるのは最初はちゃんとくすぐったいんだけど、徐々に慣れるのだとか…。薬はシンプルにまずいから嫌いだそうです。
「しかもさー、薬とか毒には慣れちゃってるからダメなんだよねー。昔そんなこともあった気がするー。苦しくても思いだせないんだっつーの!」
薬も毒も平気になるようにされたとか…。本当に、どんな超人育成教育よ。
「他にもまだまだあるんでしょ?」
「気になるの?」
「教本じゃあわからないことばかりだし。新人だから」
そうしてしばらく聞く。殺しても大丈夫なやつではないからまだいい。逆に拷問される側から聞けるのっていい経験じゃないのかな。彼なら正直に言うだろうし。あんまり効いてないとかはっきり言われるだろうけど、それはそれで参考にしよう。
「あとは…ハニトラとか?いやハニトラってさー、ただ甘くおねだりすればいいってもんじゃないんだよね。緩急、すなわちツンとデレが必要なんだよ。これで馬鹿な奴は吐くから」
いやそんな熱く語られましても。私、ハニトラ要員じゃないし。どちらかといえばその対極ですし。
「つまりあなたの国にもそういうここみたいな場所があるのよね?」
「多分ね。俺は行ったことないけどー」
そういうところって争いがすごそうだよねーと椅子にふんぞり返りながら言った。
「ああそうだ。ハニトラはねー、本気で好きにさせないとダメだよ。それで相手をしっかり切り捨てられる人間じゃないとダメだね。心が壊れる」
「ハニトラに掛けられる側としては?」
「本気で恋しないと言わないでしょ?」
彼はニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべた。
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