裏メニュー

 オレはとあるラーメン屋に行くのにハマっている。そのラーメン屋のラーメンは極太の麺に濃厚なスープ、そして山盛りの野菜が乗せられたいわゆる「二郎系」と呼ばれているボリューム感溢れるラーメンだ。


 何でもこの店の店主はかつて海外へ留学し、様々な料理のレシピや技法を習得して、一時期は老舗の高級料亭に勤めていたこともあるそうだ。しかし、ある時何を思ったか料亭を辞め、このラーメン屋を開いたそうだ。それだけにラーメンのレベルは高い。ただ大盛りにしただけの「二郎系」のラーメン屋は多い中、ここのラーメンは麺もスープもしっかり美味しく、具のチャーシューの味付けも完璧だ。


 このラーメン屋を知ってから、毎日のように通っていたが、そのうちこんな噂を耳にした。

それは「ここのラーメン屋には『裏メニュー』があるらしい」という噂だ。なんでも、何度も通った「真の常連客」だけが、店の厨房の奥へ呼ばれ、その裏メニューを食べることができるのだという。実際に「食べた」と言う人はいないのでただの噂かもしれないが、非常に興味深い話だった。


「よし、オレも『真の常連客』になるぞ!」


 そう決意したオレは、それから比喩ではなく本当に毎日そのラーメン屋に通うようになった。しかし、まだ厨房の奥に呼ばれる気配はない。さらにオレは1日3食全てラーメンを食べるようになった。


 そして、毎食ラーメン生活を始めてから1年が経過した。1年間、毎日大盛りラーメンを食べたオレは異常に太ってしまったし、未だに裏メニューを食べることができないでいた。


「やはり、アレは噂だったのか」


 そう思いかけたある日の夜。オレはいつものように夕食のラーメンを食べていた。その日は珍しく客は自分以外にいなかった。そんな時、店主がオレに話しかけてきた。


「あなたもここに通い始めて長いね。もうあなたは『真の常連客』と言ってもいい」


 オレはそれを聞いて「ついに来た!」と思って言った。


「あの! それじゃあ噂の『裏メニュー』を食べさせてもらえるんですか?」


「話が早いな。では、厨房の奥に来てもらおう」


 オレは店主に従い、店の奥へと進んだ。そして、いつの間にか気を失った。



 目を覚ました時、オレは縄で縛られて、巨大な寸胴鍋の中に入れられていた。鍋の中には水が入っていて、ネギや生姜などの野菜も浮かんでいる。店主はオレを見てニヤニヤニヤニヤ笑っている。


「こ、これはどういうことですか?」


「目が覚めたか。これからお前を調理するところだ」


 その言葉にオレは恐怖で震える。


「う、嘘でしょ! 人間を料理するなんて……」


「私はかつて海外へ料理修行へ行った時、人肉を調理するための禁断のレシピを手に入れたのさ。それによれば『生きた人間を丸ごと大鍋に入れ、水とネギ・生姜・ニンニク等各種野菜を入れて、灰汁を取りながら三日三晩煮込み続ける。調理する人間は豚のように太っている人間であるとさらに美味である』とのことらしい」


「な、なんて恐ろしい……」


「帰国した私はどうしてもそのレシピを試してみたくなり、こっそりと人を殺し、調理して食ってみた。それがうまくて病みつきになってな。もっともっと食いたくなったんだ」


「ま、まさかアンタがラーメン屋をやっているのは……」


「そうだ! お前らみたいな豚野郎を誘き寄せるためさ! さらに『真の常連客だけが裏メニューを食べることができる』なんていう噂を流してみれば、お前のような卑しい豚達が毎日ラーメンを食べに来るようになった! 食べ頃の体型に育ったところで店の奥へ呼び、こうして調理していたのさ! じゃあな! お前のことも残さず食べてやるから心配するな! それにしても『二郎系ラーメンは豚エサ』だなんて言った奴がいたが、まさにその通りだな、ふははははははは!」

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